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    ドクターエッセー 第43回  閑話休題: シルクロード記その一  
 

シルクロードは陕西省の西安(かっての長安)から始まります。西方の甘粛省蘭州までは森林がありますが、そこを過ぎると緑は減り砂漠がふえてきます。そして砂漠の中に突如オアシスの町が出現します。それが敦煌です。敦煌を過ぎるとタクラマカン砂漠が広がっています。その北には天山山脈があり山脈の北側を行く天山北路、山脈の南でタクラマカン砂漠の北を行くのが天山南路です。敦煌から西に向かうのが西域南道で陽関を通ります。そしてヨーロッパのローマに続く道、これがシルクロードです。
今回、その敦煌をめぐってきました。まず西安から飛行機にのって敦煌に向かいました。下界をみると、途中から砂漠が広がってきます。砂漠の南側には祁連(きれん)山脈があり雪をかぶっていました。飛行機で飛べども飛べども砂漠ばかりです。そして敦煌に間もなく到着するとアナウンスがありましたが、いっこうに街並みが見えてきません。滑走路に着陸しましたが飛行場のターミナル以外には建物が見えません。ちょうど砂漠の中に飛行場がある感じでした。
(写真1)本当に中国大陸の奥地にまでやってきた感がありました。聞くところによると20数年前までは、汽車や車を乗り継ぎ数日間かけてやっとたどり着けるところだったようです。古代はラクダで砂漠を超えてきたのでしょう。長安からなんと2000kmあります。敦煌は「大きく(敦)栄える(煌)」という意味で東西貿易の要所として大いに栄えた町です。しかし現在は人口15万ほどの町でおもな産業は観光と農業だと言う事です。ただ、その歴史を振り返ると興味がつきない町です。
ボクが敦煌に興味を持ったのは、中学生の時に井上靖の小説「敦煌」を読んでからです。その小説では科挙の試験に失敗した主人公趙行徳が、失望のなか街を歩いていて西夏の女に出会います。そしてその女の強烈な個性から西夏の国に関心を持ちます。西夏とは紀元1000年ごろにシルクロードを支配しようとしていた新興国家でした。シルクロードをたどり西夏にむかった彼は、西夏と土蕃(ウイグル族)との戦争に巻き込まれ、無理やり西夏の傭兵部隊に組み込まれてしまいます。そのころ敦煌は漢民族の町として栄えていましたが唐の国とは遠く離れ、途中には西夏があって陸の離れ小島のような存在でした。やがて西夏は敦煌も征服しようとします。西夏は町を征服するとすべて焼き払い、住人も蹂躙するやり口でしたので、彼は漢民族の傭兵たちと反旗を翻し西夏の王、李元旱を討とうとします。しかし失敗に終わります。逃亡のさなか敦煌の重要な経典だけでも残そうと多くの経典を鳴砂山のふもとの洞窟に隠します。それから900年を経た1900年、一道士が偶然にこれを見つけました。それは歴史的に見て非常に価値のある文化遺産になりました。これが史実をまじえた小説のあらすじです。


写真1
敦煌の空港です。遠くに祁連(きれん)山脈が見えますが、それ以外は砂漠ばかりです。
 
 
 
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