TOP > ドクターエッセー > 第20回 半夏瀉心湯
   
 
    ドクターエッセー 第20回  半夏瀉心湯  
 
半夏瀉心湯について

今回は半夏瀉心湯について、解説してみます。この処方は脾胃の病理を考えるときには、非常に重要な意味を持った処方です。まずツムラの手帳をみてみると「みぞおちの痞え感があり、悪心嘔吐下痢のときに使う処方」とあります。痞え感を心下痞と言います。硬さが加わると心下痞梗となります。成分は半夏、黄連、黄?、人参、乾姜、甘草、大棗です。
人参、乾姜、大棗で脾を温煦して、半夏は燥湿化痰、消痞します。黄連、黄?は苦寒の薬で清熱利湿します。甘草は諸薬調和します。つまり、脾陽虚を補い、胃熱をとり、心下痞をとる処方になっています。また、解説によれば、半夏、乾姜で辛温開泄し、黄連黄?の苦寒で苦降して心下痞をとるとあります。

心下痞はなぜおこるのか、その病理を日本漢方でしらべると、「心下痞硬は心下が痞えるという自覚症状(心下痞)と 同部位に抵抗圧痛の他覚的所見を認める。病態>心窩部を中心とした抵抗は通常、腹直筋などの腹筋の緊張をともなわず、圧痛もないとされる。超音波検査にて肝左葉の軽度腫大の報告あり。」とあります。で、病態のことは結局よくわかりません。中医学でも、これをくわしく解説した書はありません。中医学では腹診をしないことも一因ですが、中医学自体、未完成の部分が多くあることを示しています。それで以下に、その疑問点をひもといていきます。

まず、脾胃が正常な場合、脾は升精作用があり、水穀の精微を上にあげて全身に散布します。胃は受納、腐熟して、下降させます。そうした協力関係があって、食物の消化吸収が行われるのです。それが乱れると、どうなるかは、葉天士(清の時代の有名な老師)がのべています。「胃腑は陽に属し、脾は陰に属す。(病理では)胃は干燥しやすくあるいは火になる、脾は湿になりやすい。(臨床指南医案p307)」 つまり脾胃が協調性をもてなくなると、脾は湿が貯まり虚寒になり、胃は胃熱を持ちやすくなります。脾は冷えて、下痢になるのに、胃は熱を持って、口内炎ができたり、食欲亢進がおこったり、口渇がおこります。胃痛が起こることも多いです。胃が痛いのに食欲亢進が起こる人がいますが、こういうわけです。また脾気が上がらず、胃気が下がらないので、みぞおちで気が停滞します。それで痞え感がでてきます、気が停滞するから胃痛がおこります。これを脾胃の寒熱夾雑、升降失調症ともいいます。簡単には脾胃不和ともいいます。

こう考えると、半夏瀉心湯は脾胃の基本的病理をよく反映した処方になっています。ただ、心下痞があると、即、半夏瀉心湯ではこまります。「逆は必ずしも真ならず」です。たとえば慢性萎縮性胃炎で多いのは脾気虚胃陰虚です。陽虚の手まえの脾気虚と、胃熱ではなく干燥が主体の胃陰虚の組み合わせです。このときも心下痞(痞え感)は起こります。なぜなら、心下痞の起こる主原因は脾胃升降失調であり、寒熱夾雑ではないからです。黄連黄?があると、胃陰虚をますます悪くしてしまいます。ではこの時、何を処方すればよいのか、これは次回にお話しします。

   
 
<説明>写真は心下痞の腹診所見をあらわしたものです(小川新の古今腹証新覧より)
このように、みぞおち部分に自覚的および他覚的に抵抗を認めるのが心下痞です。
 
 
 
    NEWS