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    ドクターエッセー 第2回  大建中湯  
 

大建中湯が、ツムラの処方の中で売れ筋らしい。一昔前はあまり聞かなかったが術後のイレウス防止とかに良いらしい。私の義父も外科手術後によく飲んでいた。私の患者さんもポリフルで改善しないので、内服していた。彼女は約1年の腹痛便秘が主訴であった。腹痛でトイレに1日4回行く。2回は出ない。でるとコロコロ便。そのうち半日、腹痛が続き、4,5日してやっと便が多く出て、落ち着く。しかしその後は、同様の繰り返しである。それが大建中湯でしばらくよくなっていた。 大建中湯は傷寒論に書いてある処方で、本来は寄生虫による腹痛に用いた薬である。腸蠕動がうねうね感じるのは寄生虫によるものである。腹を暖め、殺虫して、虫を押し出すのが本来である。人参、乾姜、花椒の三味の薬で、全て温性の薬である。乾姜、花椒はとくに温燥がつよい。花椒は殺虫の効果がある。手術すると気血を消耗する。さらに開腹すると陽気も損傷しやすい。だから暖めて腸を動かすのは理にかなっている。花椒には薬理的に腸の蠕動運動を促進する作用がある。だから、術後イレウスの防止も可能であろう。これは傷寒論に乗っていない使い方で、日本漢方による発見と言ってよいだろう。 しかし、温性に傾くことを忘れるといけない。義父も陰虚の体質があったので、飲むと調子が悪くなりやめてしまった。私の患者も2か月飲むと元の木阿弥になってしまった。陰虚の人には逆効果になることがある。温燥ゆえ、ますます陰液を消耗してしまうから。 これを解説すると、陰とは車でいえばガソリンと冷却水になる。陽とは陰から作られたエネルギーになる。陰が少ないと陽も少なくなり陰陽両虚になる。冷却水が少ない場合、エンジンが動いているので(体は活動しているので)、エンジンは熱くなり、オーバーヒートになる。これが陰虚内熱である。熱が生じると風が吹く。熱にあおられ上方に吹く風になる。これが陽亢であり、眩暈、高血圧などをひきおこすと考える。このように陰液が減少している人に温燥の薬を与えると、オーバーヒートのエンジンに温風与えるようなもので、症状は悪化する。中薬学では、薬には四気五味、帰経があり、効能、応用がある。これを把握していないと逆効果になることがある。ちなみに彼女は煎じ薬で補陰健脾清胃熱して改善し、今は小建中湯エキスと潤腸湯エキスでほぼ改善している。最初に大建中湯が効いていたのは、冷飲食の取りすぎがあったからである。

 
 
 
 
 
 
 
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