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    張錫純の思想、治療について  H25年6月9日
 

大気下陥、衝気上逆の思想、治療方法の独創性(使用数が少なく、量が多め)、とくに代赭石の使用頻度が多い。
A)大気下陥105
症状「気短して息が不足して努力呼吸する。喘に似る。息が止まり急に危険な状態になることもある。兼症として寒熱往来、咽干口渇、満悶動悸、神昏健忘。脈沈遅微弱、関前が甚。酷いと六脈不全」


1)升陥湯
黄耆18知母9柴胡4.5桔梗4.5升麻3

気虚が強い時は人参、山茱萸。または升麻増量

  1. 張老師曰く「大気とは宗気のこと」107で、「大気が虚すと下陥する。」105

根拠:桂枝加黄耆湯(傷寒論)で「大気一転、その気散ずる」と大気の表現はある。ただ下陥の表現はない。ただ内経には「大気臓腑に入りて不病而卒死する」とある。張老師曰く、「膈の上には臓はあっても腑はない。大気は膈の上にあるから、大気が臓腑に入るとは膈の下に行くことに他ならない。大気が下陥すると呼吸が止まり突然死することがある」107
②喘息と似たような努力呼吸になるが違いがある。
喘息は吸気が困難で肩で息をするようになる。しかし大気下陥は呼気が困難で肩で息はしない。喘息は脈浮滑数だが、大気下陥は脈は微細で触れにくい。108

 

症例1、陰虚で不納気で大気下陥。
「48歳、素より喘息あり、すこし外感うけて発症し、毎年2,3回おこる。医者は小青竜湯加石膏を出して効果あった。しかし翌日には再発して激しく、酷い喘が昼夜やまない。医者は再び投与するが今度は効果ない。まねかれて診察するに、脈は至六、沈濡である。陰虚不納気を考え、それ故気逆して喘になった。その脈故、降気の品は使えない、すぐに熟地黄、山薬、枸杞子、玄参の滋陰の品を使った。これらをたくさん入れて少しの人参を入れた。喘息は軽くなったが止まない。再診したとき、病人は背中をたたいてもらっている。背中が緊張するという。たたくと気持ちが良い。この時脈は浮数だが沈濡。今回の再発の原因を細かく聞くと、重い物を無理して運び、その時気分が悪かった。2,3日して喘が発症した。私は、はっと気づいた。この証は陰虚不納気で吸いにくい。力つかいすぎて大気下陥して呼くのが難。その呼吸はみな努力が要り呼吸は倍になり急迫している。納気を治すだけでは病因の半分しか治していない。
そこで治療は升陥湯から柴胡、升麻、桔梗を除き、桂枝9をいれ知母18と倍にして玄参12いれた。数剤で治癒した。→黄耆18桂枝9知母18玄参12
●ぼくの疑問>これで喘が治るか?→→桂枝解より292
「桂枝は大気をあげ、逆気を降ろし、邪気を散じる。苓桂朮甘湯は短気を治すがそれは大気をあげるから。桂枝加桂湯は奔豚を治すがこれは逆気を降下するから。
傷寒論(赤本P43小青竜湯)より変方として『喘あれば麻黄除き杏仁いれる』とある。しかし桂枝は除いていない。神農本経には桂枝は喘を司るとあり、桂枝除くと定喘できない。医者は麻黄が定喘するのは知っているが、桂枝が降気定喘できるのを知る者は少ない。これは神農本経を読まないからだ。桂枝は脾気下陥をあげ、胃気上逆を下げる。」
①柴胡、升麻、桔梗を除くのは升気して腎不能気に影響するから。桂枝を入れるのは
桂枝は真気をあげて、逆気をさげるから。
②補中益気湯証で短気(息ぎれ)で大気下陥に似た症状がある。しかし大気下陥とは言わず中気下陥というがこれはどうか?p115
張老師答えて曰く「素問には大気は外感の邪気とあり、霊枢には胸中の気とある。内経を読む人は針灸の霊枢にはあまり注意しない。王氏の注釈も素問にはあるが霊枢では注釈がない。傷寒論で大気については、金匱水気門に「大気一転、その気散ずる」とあるだけである。李東垣は大気下陥を中気下陥と間違えたのだろう。だから健脾に白朮つかう。しかし中気下陥は大気下陥ほど危険ではない。中気下陥で泄瀉長い時(結局は大気下陥に至る)升陥湯に去知母、加白朮入れる。もし大気下陥で中気が下陥してないとき、白朮は不用であるが、気分が郁結することがあるので黄耆白朮を併用する。

B)衝気上逆
中医弁証(柯 雪帆;東洋学術出版社)より
衝脈気逆証は、衝脈の気機昇降の失調により気が上逆する病証である。本証は情志失調や精神的刺激、または他臓の影響により起こるものが多い。
<主症>少腹部からの気の上衝、嘔悪。
<症状>悪心嘔吐、咳唾、吐血、少腹からの気の上衝、つきあげる疼痛、妊娠悪阻
<弁証のポイント>
1)少腹部からの気の上衝、嘔悪(衝気と足陽明が一緒になって上逆することによる)という主症が必ずあること。
2)または気の上逆に伴ういくつかの症状があること(★逆気裏急)
3)多くの場合、病変が突然起こり反復発作をくり返す。これは情緒の変動と関係あり。
張錫純の説498
「腎虚で衝気は上逆する。衝脈は陽明に属するので胃気が上逆して、飲食下行できず、痰涎ふえ、腹中膨満し、噯気、呃逆してやまず、胸肋脹痛し、頭痛、眩暈となる。その脈は弦硬長で肝脈の現象だ。衝気上衝は腎気不摂で衝気を収斂できずにおこる。また、肝気横逆して胃気上逆してもおこる。498」としている。(ここに撞心はでてこない。)

C)衝気上逆の症例
1)陰陽両虚で喘あり気逆し、将に脱け出ようとする勢いが強い。治療には腎虚不摂、衝気上逆、胃気不降で満悶を治す。


参赭鎮気湯p36
代赭石18山薬15山茱萸18野台参(人参)12芡実15竜骨18牡蠣18芍薬12蘇子6

①代赭石は圧力が最強で胃気を抑え、衝気上逆をおさえ、胸膈を開き、痰涎を降ろし、燥結を通し誠にすばしこく、効果ある。虚の時は人参併用する。②気が下焦から起こり、上逆して心を突く。気逆を抑えるには代赭石。芡実で収斂する。
2)  反胃吐食(衝気上逆としている)592
「夏に瓜果を多食した、環境のせいで欝があった。食後、消化が弱く、胃に停滞し悪心あり。しばらくして、気が下より上衝し飲食を吐く。医者にて暖胃降気の薬をもらってすこしましだったが反復して数年たつ。身体衰弱して脈弦長、按ずれば不実、左右とも然り。」
代赭石18山薬30白朮9乾姜9鶏内金9炙甘草6
(→ここに撞心はでてこない)
3)衝気上衝兼奔豚575
「初秋のころ、赤白痢で医者が大黄でくだして、痢は治癒したが、この症がおこった。毎夜、牛寅の時、下焦から熱を挟んで上衝し、中焦にいたって、悶熱し、心中煩乱する。十数分後その気は呃逆して出て、熱も消える。その脈は大で平に近い。両尺はやや浮で按じると実。これは下焦の衝気が腎中の相火を挟んで上衝したものである。;衝気上衝兼奔豚である」
これには桂枝加桂湯加減
桂枝12山薬30芡実18半夏12芍薬12竜骨12牡蠣12麦芽9鶏内金6黄柏6甘草6を処方している。→ここでは衝気上衝兼奔豚として衝逆と奔豚を並列している。撞心あり。代赭石使用してないのはなぜか 

 

D)代赭石のある方剤                                                                                      


虚労発熱、
喘または咳漱、脈数弱

醴(らい)泉飲26

代赭石12山薬30野台参(人参)12生地黄15玄参12牛蒡子9天門冬12甘草6

胸郭満悶

鎮摂湯35

代赭石15山薬15人参15芡実15山茱萸18
半夏6茯苓6

喘息

参赭鎮気湯36
陰陽両虚の喘息

代赭石18山薬15人参12芡実15山茱萸18竜骨18牡蠣18芍薬12蘇子6

滋培湯39
陰虚虚労の喘逆

代赭石9山薬30白朮9陳皮6牛蒡子6芍薬9玄参9炙甘草6

(薯蕷納気湯38)陰虚不納気で喘逆

熟地黄15山薬30山茱萸15柿霜餅12芍薬12牛蒡子6蘇子6甘草6竜骨15

心悸不眠

安魂湯44

代赭石12半夏9竜眼肉18酸棗仁12竜骨15牡蠣15茯苓9

嘔吐、胃気上逆,胆火上衝

鎮逆湯49

代赭石18半夏9青黛6芍薬12竜胆草9呉茱萸3生姜6人参6

膈食

参赭培気湯50

代赭石24半夏9人参18天門冬12肉從蓉12知母15当帰身9柿霜餅15

吐血、鼻血

寒降湯52>

代赭石18半夏9栝楼仁12芍薬12竹茹9牛蒡子9粉甘草1.5

温降湯54

代赭石18半夏9山薬18白朮9乾姜9芍薬6厚朴1.5生姜6

清降湯55

代赭石18半夏9山薬30山茱萸15牛蒡子6芍薬12甘草1.5

保元寒降湯55

代赭石24山薬30野台参(人参)15生地黄18芍薬12牛蒡子12三七6知母18

(吐血で泄瀉なら代赭石使わない578)

赤石脂45山薬30山茱萸24竜骨18牡蠣18生地黄12芍薬18三七6甘草6

保元清降湯55

代赭石24山薬18野台参(人参)15芡実18芍薬18牛蒡子6甘草1.5

秘紅痰56

代赭石18大黄3肉桂3

燥結

赭遂攻結湯90

代赭石60乾姜6朴硝15甘遂1.5

痰熱、
神志不寧

竜蠔理痰湯99

代赭石9半夏12竜骨18牡蠣18朴硝6黒脂麻9柏子仁9芍薬9陳皮6茯苓6

癲狂

蕩痰湯102

代赭石60大黄30朴硝18半夏9郁金9

寒温結胸

蕩胸湯169

代赭石60蘇子18栝楼仁60芒硝12

陽明腑実

鎮逆承気湯171

代赭石60党参15石膏60芒硝18

霍乱吐瀉

急救回陽湯183

代赭石12山薬30党参24芍薬15山茱萸18甘草9朱砂1.5

類中風

熄風湯188

代赭石15人参15熟地黄30山茱萸18芍薬12附子3竜骨15牡蠣15

 

建瓴湯(けんれいとう)394

代赭石24牛膝30竜骨18牡蠣18芍薬12
生地黄18山薬30柏子仁12

内中風

鎮肝熄風湯190

代赭石30牛膝30竜骨15牡蠣15芍薬15
天門冬15玄参15亀板15茵陳蒿6川楝子6麦芽6甘草1.5

小児急風

鎮風湯196

代赭石6半夏6釣藤鉤9羚羊角3竜胆草6青黛6茯神6白僵蚕6薄荷3朱砂0.6

癲風

加味磁朱丸198

代赭石60半夏60朱砂30磁石60

難産

大順湯215

代赭石60野台参30当帰30

D-2>代赭石のある方剤:方剤名なし。その他のもおおくあるが省略


脳中痛587

生赭石15牛膝30山薬18生地黄18天門冬18玄参15芍薬15竜歯15石決明15茵陳蒿1.5甘草1.5

歯痛596

代赭石30牛膝30滑石18甘草3

肝気郁兼胃気不降576

代赭石30山薬30鶏内金6麦芽9茵陳蒿6甘草1.5麦門冬18天門冬30半夏12竹茹9続断6

胃気不降576

代赭石15生懐山薬18生杭芍18柏子仁18天門冬18
牛膝15当帰12麦芽9茵陳蒿6甘草1.5

反胃吐食592

代赭石18山薬30白朮9乾姜9鶏内金9炙甘草6

心虚不眠611

代赭石18山薬30枸杞子24玄参15沙参15芍薬15酸棗仁12麦芽9鶏内金1.5茵陳蒿1.5甘草6

 

E)代赭石のない方剤(たくさんあるので抜粋)


陰虚喘息38

薯蕷納気湯

熟地黄15山薬30山茱萸15柿霜餅12芍薬12牛蒡子6蘇子6甘草6竜骨15

虚労、飲食減少
咳喘、身熱脈虚数、無月経

資生湯21

生山薬30玄参15牛蒡子9
干朮9生鶏内金3

気郁で腹部膨張、かつ脾胃虚で郁、辛北運化できない。

鶏月至(けいし)湯70  
月至(とりの胃袋)

鶏内金12白朮9芍薬12柴胡6陳皮6生姜9

脾胃虚弱、運化失調、生痰。

健脾化痰丸99

鶏内金60白朮60

大病後、陰陽離解、陽は上に脱し、喘息自汗、目は振顫、心中動揺して落ち着かない、陰は下で脱し、失精、小便不禁、便滑瀉、陰陽両虚で上熱下寒。

既济汤33>

熟地黄30山茱萸30山薬18竜骨18牡蠣18茯苓9芍薬9附子3

肝虚腿疼、脈微弱

曲直湯123

山茱萸30知母18乳香9没薬9当帰9丹参9

気血凝滞、癥瘕、心腹疼痛、内外腫物、
一切の臓腑積聚。経絡瘀血

活絡効霊丹120

当帰15丹参15乳香15没薬15

崩漏

固衝湯

白朮30黄耆18竜骨24牡蠣24山茱萸24
芍薬12海螵蛸12茜草9棕櫚炭6五倍子1.5

吐血、泄瀉

 

 

①寒未尽で気陰両虚
②温病で太陽陽明病で気血両虚

滋陰清燥湯149

 山薬30滑石30芍薬12甘草9

滑石は余邪下行できる。

陰虚水腫602

陰虚水腫の方剤602

山薬30滑石9生地黄18芍薬18玄参15枸杞子15沙参12

脾腎陽虚で腰痛、五更泄瀉

敦复湯p40

野台参12烏附子9生山薬15補骨子12胡桃仁9山茱萸12茯苓1.5鶏内金1.50

流産予防

寿胎丸213

莵茲子120桑寄生60続断60阿膠60

肝郁脾弱、胸肋脹満
食欲不振、

升降湯119

人参6黄耆6白朮6陳皮6厚朴6
鶏内金6知母9芍薬9桂枝3川芎3

瘰癧を治す

消瘰丸226

牡蠣30玄参90貝母60黄耆120三稜60莪朮60血竭30乳香30没薬30竜胆草60

陰虚で濡養できなくなり小便不利になる

済陰湯64

熟地黄30芍薬15亀板15地膚子3

陽虚で気弱で宣通しないで小便不利になる

宣陽湯64

人参12威霊仙1.5麦門冬18地膚子3

消渇

玉液湯61

山薬30黄耆15知母18鶏内金6葛根1.5五味子9天花粉9人参12

F)脾胃に効く方剤。

代赭石あり

①反胃吐食(衝気上逆としている)592

「夏に瓜果を多食して、環境になじめず欝。食後、食物停滞し悪心あり。気が下より上衝し飲食を吐く。医者にて暖胃降気の薬をもらってすこしましだったが反復して数年たつ。身体衰弱して脈弦長、按ずれば不実、左右とも然り。」

代赭石18山薬30白朮9乾姜9鶏内金9
炙甘草6

嘔吐、胃気上逆,胆火上衝

鎮逆湯49

代赭石18半夏9青黛6芍薬12竜胆草9呉茱萸3生姜6人参6

舒肝降胃安衝の方剤

病態>肝気郁結、衝気上逆、胃気不降のために胃脘満悶、胸中煩熱、脇下脹痛、呃逆、嘔吐、便干を治す

代赭石30生懐山薬30鶏内金6麦芽9茵陳蒿6甘草1.5麦門冬18天門冬30半夏12竹茹9続断6

胃気不降
576

病態>肝、胃、衝脈が上昇して下がらないので上焦では嘔吐、下焦では便秘

代赭石15生懐山薬18麦芽9茵陳蒿6甘草1.5牛膝15生杭芍18柏子仁18天門冬18当帰12

胃気不降
411

症状>心中満悶、飲食停滞胃中不下、ときに嘔吐、便秘で下剤で出る。薬飲むが改善せず数年たつ。飲食減少、体やせ。脈全て郁象。

代赭石30山薬21当帰9鶏内金6厚朴3柴胡3

代赭石なし

肝気犯脾;肝郁脾弱で飲食欲せず、胸脇脹満

升降湯119

野台参6、生黄耆6白朮6陳皮6厚朴6鶏内金6桂枝尖3川芎3知母9生杭芍9生姜6

肝気犯脾胃120
病態>肝郁克土で脾胃の気上がらず胸中満悶、短気を治す。

培脾舒肝湯120

生黄耆9白朮9陳皮6川厚朴6桂枝尖1.5柴胡1.5麦芽6生杭芍12生姜6

胃脘痛592

夫の出稼ぎについて南方から北方にきてホームシックになり胃脘痛。飲食停滞して呃逆、食べると痛い。痩せ、呼吸短気、口干、便感、脈弦細、右脈は硬い。

生懐山薬30枸杞子24生黄耆9鶏内金9麦芽9桂枝1.5玄参9天花粉9天門冬9生杭芍6生姜9大棗3枚

肝気犯脾

肝脾双理丸412

甘草300芍薬60桂枝15厚朴15薄荷9氷片6朱砂90

 

 
 
 
 
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