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    過敏性腸炎について1 H24年2月10日
 

          愛媛中医研
1)実用中医内科、臨床中医内科では泄瀉に含めるとしている。即ち脾胃の病変として泄瀉があり、その範囲は「消化管機能異常、器質性病変での腹瀉、たとえば腸吸収機能異常、胃腸型感冒、急性慢性腸炎、食物中毒、慢性膵炎、腸結核、過敏性腸炎など。」とする。
2)中医臨床121号(2010.6月加島)では
過敏性腸炎の弁証として


肝郁脾虚

肝郁犯脾の為に、腹痛、腹鳴、泄瀉する、下痢の後痛みが減る。胃脘部がつかえて胸悶、急に焦り、怒り、噯気がでて多く食べられない。舌辺紅、苔薄白、脈弦

痛瀉要方、四逆散、桂枝加芍薬湯、小建中湯、加味逍遥散

寒熱錯綜

寒熱錯綜のために腹痛、腸鳴、泄瀉する、便は粘膩、ときに泡沫、便秘と下痢が交互にあり、腹を温めると症状は軽減し、口干。

烏梅丸、半夏瀉心湯、甘草瀉心湯

腸道津虧

肝郁で化熱して津液焼灼して、大腸が潤いを失って、頑固な便秘。便秘は3.4日に1回、便は石、羊糞様、左下腹部に索状の塊を触知し少腹が痛み、不眠、頭痛、煩悶、手足の発汗。

一貫煎、麻子仁丸、潤腸湯、桂枝加芍薬大黄湯

脾胃虚弱

脾胃虚弱のために溏便、水様、食欲なく食後に心窩部の不快感あり、油濃いもの食べると便回数増加、上腹部にははっきりしない痛みあり、顔色悪く、精神的に疲労、舌質淡苔白、脈緩弱

参苓白朮散、真武湯、真武湯合人参湯、六君子湯、柴苓湯、茵陳五苓散、香蘇散、半夏厚朴湯合人参湯、分心気飲

以上の分類考察だけでは、以下の問題点を解決できない。
症例1問題点>以下の事象をどう考えるか
1)脾気虚なら隠痛、下痢がふつうなのに、強い腹痛と下痢がある。
2)便に粘液がある
3)便でると爽快は?セスデン飲んでいると便でても腹痛あるのはどう考えるか?
4)途中なぜ嘔気がでてきたか。胃痛はなぜか
5)食べると気持ち悪くなるのはなぜか。
6)腹痛あっても便でないことあるのは?
症例2
1)腹脹は食べてからしばらくしてから起こる。
2)便でてもすっきりしない、残便感はつねにある。
3)腹痛して便を催して行ってもでない。
4)便が臭い
5)白い粘液がつく

3)泄瀉の分類のいろいろ

 

 

実用中医内科、泄瀉

症状鑑別診断学
泄瀉

妙法解析
慢性腸炎

妙法解析
泄瀉

暴瀉

寒湿泄瀉

 

 

湿熱泄瀉

 

 

傷食泄瀉

 

久泄

脾虚泄瀉

○脾虚泄瀉
脾虚夾湿
脾虚下陥

腎虚泄瀉

脾腎陽虚

脾腎陽虚

肝郁脾虚

 

瘀阻腸絡

 

 

 

水飲留腸

 

 

 

 

熱結傍流

 

 

 

 

大腸湿熱

 

 

湿熱内壅

 

大腸虚寒

 

 

 

 

 

脾胃陰虚

 

 

 

脾胃陰虚

 

脾胃虚寒

 

 

 

 

 

 

 

4)泄瀉の弁証分類  主に脾胃の問題である                

 

 

実用中医内科、症状鑑別診断学、

処方

暴瀉

寒湿泄瀉

清稀の便(臭み少ない、喜温喜按)、腹痛腸鳴
脘悶食少、寒熱頭痛、白膩苔、脈濡緩

藿香正気散

湿熱泄瀉

腹痛と下痢、下痢は急迫、下痢しても不爽。黄褐色の便、腥臭。肛門灼熱、煩熱口渇。小便黄、黄膩苔、脈滑数或濡数

葛根芩連湯+木通、滑石

傷食泄瀉

腹痛腸鳴、便は敗卵の臭さ。下痢後痛み減る。脘腹脹満、噯気酸臭、食欲ない、苔腐厚膩、脈滑

保和丸

久泄

脾虚泄瀉

便は時溏時瀉、反復する、便形なく、飲食減少、食後脘悶不舒、腹部隠痛。喜温喜按、油もの食べると便数ふえる、面萎黄、倦怠、舌質淡、白苔、脈細弱

参苓白朮散
補中益気湯+固渋剤

腎虚泄瀉

明け方臍の周りが腹痛、腸鳴して下痢、下痢後和らぐ、冷え、四肢冷、腰酸、舌質淡、白苔、脈沈細

脾腎陽虚のときも
理中丸合四神丸
or胃関煎

肝郁脾虚

下痢前胃脘張痛、下痢には未消化物有。下痢後痛み変わらず或いは腹痛酷い。精神刺激で誘発される。両脇張痛悶、食欲なし、呑酸、噯気、失気。舌質淡紅、苔白、脈弦

痛瀉要方

瘀阻腸絡

下痢長い、下痢後不爽、残便感、腹部刺痛、痛み定所、拒按、面暗、瘀点、舌質暗紅、口干不多飲、脈弦小渋

少腹逐瘀湯、
(丹参川芎)

水飲留腸

体痩せ、腸鳴ぐるぐる、便下痢清水or泡沫様、清水吐く、腹脹尿少、舌質淡苔白滑、脈濡滑

苓桂朮甘湯合椒藶黄丸

熱結傍流

大便時黄稀水or青稀水、臍周囲腹痛、拒按、胃脘満悶、納差、小便短赤、帯黄膩、脈沈滑

大承気湯

胃関煎>熟地黄15山薬6扁豆6炙甘草6乾姜9呉茱萸1白朮9

5)弁証のポイント(途中経過、後で再掲)
①脾気虚泄瀉では腹痛強くない、あっても隠痛。(あと、腹痛が強くないのはあと水飲留腸のみ)ところが脾陽虚、脾腎陽虚になると、腹痛下痢になる。腎陽虚では五更泄瀉が多いが、脾腎陽虚では不一定。(妙法解析の症例からいえる)
②便の後、痛み減るのは腎陽虚、食傷、脾虚食積(陰寒と食積がとれて痛み減る)

★脾虚食積では便後不爽(鑑別診断333)。食傷脾胃のときは便後痛み減る(鑑別診断450)脾虚食積、食積では便後不爽で、便後腹痛は減る(食積、脾虚食積の分類から)
③「下痢の後もさっぱりしない、残便感ある」は瘀血、湿熱。(病理産物、湿熱はとれにくい)しかし、瘀血も湿熱も腸で傷害している。「瘀血で腸絡を阻滞する。」「湿熱は腸で熱あり」と解説している。
④下痢後も痛みとれないのは肝郁脾虚。
中医臨床121号(2010.6月加島)では肝郁脾虚なら下痢の後痛みが減る、とあり矛盾する。→私)肝郁のみなら、例えば、ため息すれば少し楽になる。しかし肝郁が脾胃升降失調起こし、腸気滞をおこすと下痢後も腹痛おこす。症例1でセスデン(抗コリン剤)使うと、下痢後も腹痛が起こるようになったことから言える。
⑤便が臭いのは「湿熱は腥臭(生臭い)。食傷は敗卵の臭さ、酸腐臭(卵の腐った臭い)」 ⑥「便に粘液」「腹痛して便を催して行ってもでない。」これは便後残便感と同様、
腸の問題としてとらえる必要がある。→痢疾の病態を知る必要がある。
⑦「腹脹は食べてからしばらくしてから起こる。」これも上の弁証からでは不明。
もう少し脾胃の病症を掘り下げる必要がある。

6)泄瀉と痢疾  中医内科

 

病位

症状

 

 

泄瀉

 

浅、軽度

①腹痛と共に腸鳴、脘張
②腹痛は排便後軽減

排便回数増加、便の稀薄、酷いと水様

病は中焦から。水穀が分けられないで湿が脾胃から腸に移る→分利すべき

 

痢疾

 

深、重

①腹痛と共に里急後重、
②腹痛は排便後も軽くならない。

腹痛、里急後重
赤白の膿血下痢。粘液下痢

病は下焦にあり、分利しても治らない

 

7-1)痢疾   実用中医+中医内科


大腸湿熱
(湿熱痢)

腹部疼痛、下痢粘液或便膿血。水様便で始まりその後赤白便。里急後重、肛門灼熱、胸脘痞悶、小便短少、黄膩苔、脈滑数。表症兼なら悪寒、発熱、頭痛、脈浮数。

腥(せい)臭(生臭い)はあるはず
★臭秽で近づけない(医鏡)
芍薬湯
葛根芩連湯、白頭翁湯
槐角丸、三仁湯、連朴飲

大腸寒湿
(寒湿痢)

腹痛拘急、白赤粘液を下痢する。白が多い。或白溏、里急後重、口淡、中脘痞悶不渇、頭重身困、小便清白、舌質淡苔白膩、脈濡緩。

★①痛久而後下者是也(医鏡)
②瀉後腹脹身痛(永類)
→便でてさっぱり感はない。
③腹鳴雷鳴多い(要決)

★作利不腥秽→臭いは臭くない
(原病式)

胃苓湯+当帰、木香、乾姜、枳実
①蒼朮白朮厚朴で健脾燥湿
②猪苓茯苓沢瀉で滲湿
③肉桂乾姜で温化
④木香陳皮枳実で行気
枳実>苦辛で微寒

疫毒痢

発病は急で、壮熱口渇、頭痛煩躁、胸満不食、嘔吐悪心。腹痛激しい、里急後重も激しい。膿血を下痢、紫紅色、or血水状で便は頻回、舌質紅絳、滞黄燥、脈滑数  ●腐敗臭

白頭翁湯+芍薬湯
(黄芩、芍薬、黄連、大黄、檳榔子、当帰、木香、肉桂、甘草)

飲食
積滞痢疾

粘液汚濁を下痢、食物残差あり。腹脹して拒按、下痢の後少し減る。食後には酷くなる。噯気悪心、口臭えん食、苔厚膩。脈沈滑

枳実導滞丸+木香檳榔子、莱菔子山査子

★①酸腐臭(医鏡)
②敗卵臭(妙法解析)

大腸虚寒
(虚寒痢)

腹部隠痛、喜按喜暖、四肢不温、腸鳴溏瀉、粘液多く白滑。大便失禁、肛門下垂、便の後脱肛、便色浅い、或便秘、舌質淡、苔薄滑、脈沈遅

●ここでは裏急後重は記載なし
★景岳全書「虚痢でも裏急後重ある。」
★便は不臭(症候鑑別診断学より)
①附子理中湯、重症なら
②桃花湯合真人養臓湯

陰虚痢

赤白下痢。長く治らない、膿血粘調or鮮血、臍下急痛、虚坐怒責、発熱煩渇、
寝返りして不眠。舌質紅絳少津、膩苔花剥、脈細数

黄連阿膠湯駐車丸
(黄連、黄芩、阿膠、鶏子黄、芍薬)
(黄連、乾姜、当帰、阿膠)

休息痢

下痢がやんだり出たりする、長年治らない、飲食不節、生活不規則、外邪を受けて、過労で、思慮過度で誘発される。倦怠嗜眠、腹脹納差。発作の時は便は赤白の粘液で里急後重。舌質淡紅、膩苔、脈細渋、or虚大or濡軟

資生丸
(参苓白朮散加藿香、橘紅、黄連、沢瀉、芡実、山査子、麦芽、白豆蒄)

噤口痢

下痢して食ができないものを言う。実証である。多くは湿熱疫毒が腸に蘊結して胃をせめて胃失和降になった。

開噤散
(人参、黄連、石菖蒲、丹参、蓮子茯苓、陳皮、冬瓜子、陳米、荷葉)

7-2)
●痢疾のまとめ
①便回数おおく、腹部疼痛、里急後重、便下赤白膿血を主要症状とする。
②西洋医学的には細菌性痢疾、アメーバ赤痢、潰瘍性結腸炎、慢性結腸炎、
放射性結腸炎がある
③痢疾は湿熱痢、寒湿痢、疫毒痢、飲食積痢が基本である。
湿熱痢から休息痢になったり、噤口痢になり、また陰液を損傷して陰虚痢になる。一方、寒湿痢(病位は大腸)から脾腎に及んで虚寒痢(脾腎陽虚)になっていく。腸から脾胃へと波及していく。
★④里急後重とは「便が切迫するが実際はなかなか出ないで肛門が重く下垂感でるいこと」(便意が切迫するが実際はなかなか通じがない)
→行きたいのだが行っても出ない。(腹痛してトイレ行くがでない)
★⑤疾患が大腸の痢疾におよぶと粘液が出てくる。脾胃湿熱ではおこらない。

●景岳全書より「里急後重は大腸に病があるが本は脾腎にあり、里急後重は熱痢、寒痢、虚痢すべてにある。中焦の熱が下に迫り、中焦の寒が下に迫る。脾腎虧虚で気陥が下に迫る。」また「分利とは利水して水谷を分けること。」
●痢疾の時の便の臭いについて教科書では記載がない。
古典より調べて記載した→★
<参考>
①養臓湯>桂肉3罌粟殻20訶子12肉豆蒄12人参6白朮15当帰9芍薬15木香9炙甘草6
②桃花湯>赤石脂30乾姜9粳米30
③赤石脂      >甘酸渋温、大腸胃;渋腸止瀉、止血
④木香>など理気剤は辛苦温が多い。苦寒は川楝子、微寒は枳実
⑤檳榔子6-15>辛苦温、殺虫、消積、行気利水
⑥木香檳榔子で里急後重、脘腹脹満を治す。

8)鑑別>脾胃虚寒と、脾腎陽虚と大腸虚寒のちがいは?

 

弁証学、
証候鑑別診断学

証候鑑別診断学より鑑別法について

 

脾胃虚寒
(脾陽虚)

主>腹痛(喜温喜按)寒がり、顔色蒼白、舌質淡胖。寒には収引あるので腹痛(腹中冷痛)起こりやすい。水様便、未消化便

腐熟できず、水谷を運化できないので便が溏薄になる。食欲不振、食後脘腹痞悶(病は中焦)

参苓白朮散
陽虚なら
附子理中湯

①脾陽虚で津液不承のため口唇干燥すること有>(7)章次公
②腹脹は食後に酷い(路志正)

脾腎陽虚

主>清穀を下痢する、腰膝酸軟、浮腫、寒がり、四肢冷え
①五更泄瀉、少腹冷痛

記載なし、推定>中下焦の病であるが大腸の病ではないので粘液はない。

附子理中湯、右帰丸

大腸虚寒

鑑別より>
腹部隠痛、喜按喜暖、四肢不温、腸鳴溏瀉、粘液多く白滑。大便失禁、肛門下垂、便の後脱肛、便色浅い、或便秘、舌質淡、苔薄滑、脈沈遅

泄瀉して腸鳴がひどい。或いは便秘。病は下焦にあるから食欲は変化なし、食後の痞悶もない。

①附子理中湯、
重症なら
②桃花湯合真人養臓湯、

 

9)胃陰虚と脾陰虚の区別(弁証学と方薬中、路志正の文献より)

 

弁証学より

方薬中

路志正

胃陰虚

 

益胃湯
沙参麦門冬湯

主>食少、干嘔、舌紅光
①食後の胃脘部の不快感、胃痛。干嘔、または嘔吐、便結
②空腹感あるが食べたくない。
③(診断学より)水飲んでも吐く、水飲しても口渇改善しない。
③陰虚、有熱、気逆が重要。
④本質が邪熱傷陰なので熱証は強い。→下痢は少ない、腹脹より胃痛が多い。
⑤腎陰虚に伸展していく。また陰虚内熱から気滞瘀血で胃の激痛になる

(空腹感あるが)食べれない、胃中灼熱感、口干津、干嘔

 

脾陰虚

 

 

沙参麦門冬湯
麦門冬湯

主>食欲不振、食後腹満、消痩、無力感、舌質紅少津、
①便は秘結、又は糖薄。
口唇干燥。水飲しても口渇改善しない
食積、湿熱が伴うと舌は黄膩、白膩になる
②脾気虚、陰虚、熱証がみられるが症状はさほど強くない。
③本質は気陰両虚である。気虚が進行して陰陽両虚になることが多い。
④胃陰虚との違い>胃陰虚は邪熱傷陰であり、熱証が強く陰虚も強い、火旺がある。
脾陰虚は熱証かるく火旺はない、陰虚もかるい。
⑤腎陰虚に伸展はなるのはまれで気虚が進展して陽虚になり陰陽両虚になりやすい。
▲参考>気逆もない。腹痛記載もない。(ただし診断学には胃痛の記載もある)
▲呉鞠通曰く「脾陰虚では泄瀉と腹満がひどい」

(空腹感あるが)食べたくない、食不化、便秘。
また脾陰虚から脾陽虚になって浮腫が出やすい。

 

 

①脾陰虚泄瀉>
下痢は頻回でも腹中冷感はない。尿頻回。腹脹あっても食後でない。煩満、口唇干燥。痩せ無力、五心煩熱
烏梅+太子参、玉竹で酸甘化陰

②脾陽虚泄瀉>
腹中冷痛がある。便下稀溏、完谷不化、腹脹は食後に酷い、虚寒の症状。(脾陽虚で津液不承のため口唇干燥することあり:章次公)

★腹脹あっても食後でない。しばらくしてから腹脹あるのは脾陰虚。

参考>益胃湯(沙参、麦門冬、玉竹、生地黄、氷砂糖)

 
 
 
 
 
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