TOP > いよ中医研究会 > 第8回1
   
 
    皮痺(硬皮病)1 h24.10.28
 

(1)病機において、西洋医学と中医学の違い。
①西洋医学の病機>
珪肺の環境因子や免疫異常が関与
病変は>炎症(間質性肺炎、関節炎)、線維化(肺線維症、皮膚硬化)
血管病変(レイノー病、毛細血管拡張)
②妙法解析より解説
外邪侵襲が皮痺の主要病因であり、風寒湿邪が主である。臓気失調が内在因素である。飲食労倦は脾胃を損傷し、気血化源不足して皮膚失養になる。先天不足あるいは房事で傷腎して、腎陽虚なら温煦できず、腎陰虚なら滋養できず皮痺は酷くなる。
外邪が皮膚に留滞してあるいは気虚陽虚で気血津液の運行傷害がおこり、さらには痰濁瘀血になる。痰濁瘀血は皮痺の続発性悪化要因である。要するに外邪侵襲、痰濁瘀血、気血陰陽両虚が皮痺の基本病機であり、その中で痰瘀互結が本病の最初から最後まで関与している。

(2)弁証論治のいろいろ(中医でも書物により弁証は異なる)
①中医皮膚病学より
1)寒凝経脈>陽和湯合独活寄生湯
2)血瘀気滞>桃紅四物湯合活絡降霊丹
3)脾腎陽虚>桂附八味丸合参苓白朮散
②妙法解析より>この弁証にのみ湿熱がある。
1)寒湿痺阻>独活寄生湯
2)湿熱痺阻>宣痺湯
(防已15滑石15薏苡仁15蚕砂9連翹9山梔子9赤小豆9半夏19杏仁15)
3)気血両虚>黄耆桂枝五物湯
4)痰阻血瘀>身痛逐瘀湯合二陳湯
(桃仁、紅花、当帰、川芎、羌活、秦艽、地竜、五霊脂、没薬、牛膝、香附子、甘草)
5)脾腎陽虚>右帰飲   
③皮膚病中医診断学より


1)
風湿外襲

四肢、胸前皮膚に片状のまたは棒状の皮膚病変が出て触ると硬く、軟骨の如し。蠟様光沢で、手で摘まめない、痛瘙ははっきりしない。舌質淡紅、苔薄白、脈浮数

治>袪風除湿、通絡和血
方>蠲痺湯(酒当帰10白芍10黄耆10羌活10海風藤12桑枝12地骨皮6紅花6木香6川芎6防風6細辛6)

2)
腎陽不足

全身皮膚が板の様に硬く、手足が酷い、面に表情少なく、鼻先耳は薄い、眼瞼合わず、口唇は縮小し、舌短出しにくい、畏寒四肢冷、面色光白、便溏、腰酸膝軟、月経不暢、滑精陽萎、舌質淡紅、胖嫩、苔薄白、脈沈細無力

 治法>温補腎陽、固衛和営
方薬>右帰飲(熟地黄10山茱萸10制附子10黄耆10当帰12白朮12鶏血藤12伸筋草12桂枝6仙茅6巴戟天6青皮6

3)寒邪外襲

四肢断端皮膚が硬く暗褐色で、指は青紫、口唇色は沈で寒に会うと酷くなる。関節疼痛あり、肌膚表は汗少、毛が抜けおちる。舌質淡紅、苔薄白、脈弦緊、

治>温経散寒、調和営衛
方>陽和湯加減(熟地黄10鹿角膠10白芥子4.5炮姜4.5麻黄6桂枝6甘草4.5赤芍6黄耆10羌活10独活10丹参15鶏血藤15

4)血瘀経脈

四肢皮膚が板の様に硬く、麻木不仁、四肢端は冷で紫、皮膚色暗滞。骨節腫痛、面色は暗、口干だが不欲飲、月経不調、舌質瘀斑紫暗、脈細渋

治>益気活血、通絡蠲痺
方>活絡効霊丹(丹参30当帰15乳香10没薬10鶏血藤15鬼箭羽15黄耆10党参10木香6青皮6赤芍6甲珠6)

5)久痺及肺

皮痺が長く治らないと、風寒感じて邪が肺に伝わり、軽症では咳漱、痰多薄白、体は畏冷、重症では痰鳴、胸悶短気、舌質淡紅、苔白、脈緊

治>宣温肺化痰
方>小青竜湯加減(麻黄4.5細辛4.5乾姜4.5五味子4.5半夏10白芍10炙甘草6茯苓4.5前胡10陳皮10蘇子10)

6)胸陽不振

四肢から全身皮膚が頑痺で硬く、心悸短気、心胸満悶、陽気は四肢端に届かず、四肢端は冷紫、舌質暗紅、苔白、脈微細、

治>宣痺通陽、益気活絡
方>生脈散加減(高麗参10麦門冬12茯神12炙甘草12当帰12五味子6紅花6郁金6栝楼6薤白6蘇梗6丹参6)

7)肺脾両虚

全身皮膚は痺硬或いは皮膚干燥、萎縮、面色萎黄、倦怠無力、食欲不振、食事困難、胃脘満悶、腹脹便糖、舌質淡紅、苔白、脈濡弱。

治>温扶脾、培土生金
方>参苓白朮散(高麗参10白朮12茯苓12陳皮12扁豆12丹参30山薬30炙甘草6砂仁6鶏内金6玫瑰花6乾姜6)

参考>この弁証には5、6.7のように上焦、肺にも原因があるとしている。

(3)硬皮症の特徴である「皮膚が硬くなるのをどう考えるか?」
1)西洋医学的には、その病理変化は膠原繊維の増殖、組織の繊維化、小血管の内皮細胞の増殖、血管腔狭窄である。
2)朱仁康老師より(臨床経験集p188)
「硬皮病は膠原病、自己免疫疾患であり、中医学的には痺証になる。ゆえに皮痺という。その発病の機序は、内因は気血両虚で、腎陽不足、営外不固で、外因は風寒湿邪である。邪が虚に乗じて経絡肌表血脈の間に阻滞する。痺証故、気血が滞り、皮膚が硬くなる。治療では痺証の角度から考えて、痺証の処方、独活寄生湯を使用する。」
例>独活寄生湯加減
当帰、川芎、丹参、赤芍、独活、桑寄生、防已、鶏血藤、伸筋草、牛膝、桑枝、
  地骨皮、巴戟天、仙茅、仙霊脾、胡芦巴、莵茲子、
後期に病状安定すると、または萎縮があるときは
太子参、黄耆、熟地黄、附子、桂枝を加味。 

 

3)邓铁涛より(中国百年百名中医臨床家叢書)
①「一般に中医では痺証、皮痺、血痺、風湿痺の範疇に入るが、臨床的にこの治療は困難であり、老師は虚損症と考えて治療している。病位は腎、脾、肺である」
②「肺の気陰が損傷すると皮膚の潤いがなくなり革のように硬くなる。脾胃失調で肌肉は痩せ、やがて腎に及ぶと骨が損傷して関節は硬くなる。硬皮症の最初は皮膚から障害を受け骨内臓におよぶがこれは上焦の損傷が下焦に及ぶことによる。」
③弁証は肺脾虧虚、脾腎虧虚、兼症(心血不足、痰湿、瘀血、胃陰虚など)の3つに分けている。
<軟皮湯>
熟地黄24沢瀉10牡丹皮10山薬30茯苓15山茱萸12阿膠10(よう化)
百合30太子参30
六味丸で補腎し、太子参で脾胃補い、阿膠、百合で肺の養血をする。
加減>心血不足なら、酸棗仁、鶏血藤。腎陰虚なら、石斛、
痰湿壅肺なら橘絡、百部、紫苑、五爪竜、瘀血なら丹参、牛膝、
腎虚高めるには鹿角膠、鼈甲。

(4)「皮膚所見からどう分析するか」
→これに関する記載はほとんどない。付随した全身所見から弁証しているのがほとんど。ただ参考になるのは邓铁涛と張志礼の弁証分類(ほぼ同じ)による分析。

 

張志礼

邓铁涛

脾肺不足

 

●脾肺不足、経脈阻隔、気血瘀滞
症状>
皮膚斑塊、または索状硬化。表面光沢、蠟の様。局部は硬く、萎縮または板状。四肢不温,限局性硬皮病に多い。舌淡、脈沈緩、

方剤>
黄耆15白朮10茯苓10天門冬10党参10桂枝10白芥子10伸筋草15山薬15丹参15紅花10夏枯草15白僵蚕10

●肺脾虧虚
症状>
皮膚皮の如し、干燥、酷いと皮膚萎縮、皮膚紋里消失、毛髪脱落、倦怠無力、体重減少、納差、便糖、
舌胖淡嫩、歯根。苔薄白、脈細弱

脾腎両虚

●脾腎両虚、気不化水、気血凝滞
症状>
四肢不温、指先硬い、皮膚は水腫変硬。疲れ力なし。畏寒怕冷、便糖、軟便。酷いと関節疼痛、屈伸不利、女性は月経遅れ、閉経。全身性硬皮病に多い
舌質淡、胖歯根脈沈伏,緊、緩遅。
方剤>陽和湯加減
制附子6肉桂6白芥子10熟地黄15麻黄6鹿角膠10黄耆15白朮10茯苓10丹参15赤芍15鶏血藤30白僵蚕10木香10党参15

●脾腎虧虚
症状>
顔貌は表情ない、肌肉萎縮、呼吸に力いる、嚥下困難、関節拘縮、活動制限、酷いと関節変形、痙攣、腰痛、肌肉力なし、頭暈耳鳴り、月経不整、閉経。
舌質淡嫩、苔少、脈弱、細数。

 考察> 皮膚所見の特徴はなにか
①肺気不足で皮膚は萎縮、干燥、皮膚紋里消失、毛髪脱落になる(肺は水の上源)
②腎気不足だと皮膚は水腫様、関節拘縮。
③脾気不足で肌肉萎縮。
それと弁証分類より④「四肢が冷で青紫になるのは寒邪外襲と瘀血」

 

(5) チアノーゼの色(硬皮症の9割以上にある症状)をどう見るか?
西洋医学的には、(内科学書p883より)
①蠟の様な白色(動脈の収縮のため)→チアノーゼの青紫色(静脈からの還流が増えて起こる)→紅潮の赤色(動脈の再疎通でおこる)
注>静脈からの還流が増えて青紫になるのは酸化していないHb(還元Hbで青紫色)
が増えるため。
これを中医学的にどう見るか?  中医内科学より


症状

 

気虚血渋

指の色は蒼白、青紫の時間より持続時間は長い。麻木、張痛、倦怠無力を伴う。気短懶言、舌淡嫩、歯根、苔薄、脈細弱無力

黄耆桂枝五物湯加減
黄耆、桂枝、芍薬、当帰、生姜、鶏血藤、大棗

脾腎陽虚

寒を受けて指は氷のように冷たい。皮膚色は白で蝋燭様、握る力はない、腫脹麻木、精神萎靡、顔色華なし、脘腹脹満、舌淡苔白、脈沈細

陽和湯合当帰四逆湯
熟地黄、鹿角膠、白芥子、肉桂、炮姜、麻黄、生甘草、当帰、細辛、木通、白芍

気滞血瘀

指は持続性青紫。冷たく、張痛、麻木、情志刺激で引き起こる。寒を受けると酷くなり、指末端に瘀血点有。趺陽脈は微弱で消失。胸肋張痛心煩易怒、疑い深く抑鬱、舌紫暗、瘀斑。脈沈遅、沈渋。

柴胡疏肝散合身痛逐瘀湯
柴胡、香附子、芍薬、枳穀、川芎甘草、当帰、桃仁、紅花、牛膝、没薬

邪熱蘊郁

指張痛、痛みと火灼、色は紫暗、あるいは青紫、または黒。開口潰瘍、夜間酷い。
尿赤便結、舌紅絳、苔黄、黄燥、脈細数

四妙勇安湯
玄参、金銀花、当帰。生甘草

考察
①白いのは「気虚(陽虚)血渋」(渋とは滑らかでない事)すなわち気と血がめぐらないことであろう。青紫は気滞血瘀。
②江部先生は
白いチアノーゼ→血がいかないから白、気が行かないから冷。
気を行かすのは桂枝、呉茱萸。血を行かすのは当帰、川芎、牡丹皮
紫色のチアノーゼ→血は行くが帰れないから紫色。気を返すのは枳実。
血を返すのは芍薬。     
指の色に変化はないが手足の先の冷える人(レイノーではない)では、血は行き帰りができるが気が血脈に沿って巡らないから。
参考>本草備要より「芍薬は営気が脈絡巡行からはなれ肉に逆した状態(腹痛発生)を治す。逆気を収斂して営気を戻す作用がある」としている。

(6)硬皮症は、中医的には痺証に分類され皮痺とされる。よって治療には温経通絡が多く、その他に活血通絡、理気通絡が採用されている
1)通絡について(これは一般の痺証にもあてはまる)
一般に通絡できる生薬は(中薬学より)桑枝、威霊仙、忍冬藤、鶏血藤、夜交藤、白芥子、全蠍、蜈蚣、地竜、路路通、烏梢蛇、白花蛇が主体である。
2)絡病学より通絡の効能あるものは、もう少し範囲が広くなっている。
資料2>
特徴としては①辛味で通絡する。 辛温通絡とか辛香通絡とか、②虫薬で通絡する
③藤薬で通絡する④絡が虚しているとき補で通絡する

3)一般に藤枝(鶏血藤、絡石藤、海風藤、鉤藤)はよじ登れるので四肢待末端に到達できる。威霊仙は十二経絡を通行できる。(参考)鶏血藤、鉤藤、青風藤(防已)が良いかも?
4)通絡と化瘀の違い(絡病学より)
絡には「経絡の絡」と「脈絡の絡」がある。前者は西洋医学的に言えば、神経、内分泌、免疫と関与して、その病は気の運行傷害、機能傷害としてあらわれ、温煦、推動、防御機能の失調として現れる。後者は血液の輸布と関与し、脈絡の血管の構造、収縮機能、血液の運搬と関与する。それには血虚と瘀血がある。絡病とは絡全体の異常であり、瘀血はその中の一部を反映しているに過ぎない。

(7)老中医の治療方のいろいろ
当帰四物湯、黄耆桂枝五物湯、陽和湯が主でその他に九味羌活湯、独活寄生湯がある 
当帰四逆湯加減(当帰、桂枝、白芍、通草、細辛、甘草大棗)

 

12-2

12-1(症例)

13

15

2)

 

脾腎陽虚、
気血不足

素体陽虚、営衛不和、風寒湿邪、気滞血瘀、

腎陽不足。
風寒痺阻

寒湿内阻、
脈絡痺塞、
気滞血瘀

風湿、気血痺阻
独活寄生湯加減を主

当帰

10

10

10

8

10

桂枝

10

10

6

9

桂皮6

白芍

 

10

12

 

赤芍10

通草

5

3

 

 

 

細辛

5

6

2

 

 

甘草

5

5

 

 

 

大棗

10枚

10枚

 

 

 

仙茅

10

15

 

 

15

仙霊脾

10

15

 

 

 

丹参

10

30

 

 

 

 

党参10
白朮10

炙黄耆15
鹿角膠20
巴戟天12

羌活6
独活9
桑枝20
牛膝6
炮附子3

郁金9
麻黄9
枳穀9 
鶏血藤30
忍冬藤30 絡石藤30
延胡索9 
桃仁9
紅花9 
赤芍9

独活10
桑寄生10
牛膝10
杜仲12
地骨皮10
紅花9
淫羊藿12
海風藤15

 
 
 
 
 
    NEWS