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   蕁麻疹について    h24.12.11
 

               
●蕁麻疹についての問題点を考えてみる。
①膨疹の本体はなにか?   
②蕁麻疹の位置はあさいか
木田山薬堂、曰く「蕁麻疹のほとんどは皮膚の浅いところにできる湿熱である。顔、手は熱の放散場所であるから、熱が逃げやすい。それゆえ蕁麻疹は顔、手足にはすくない。アトピーは皮膚の深いところに多い。」という。これは正解か?
③風熱で慢性蕁麻疹をおこすとき、毎日、風熱邪気をうけておこるのだろうか(風寒のとき、つまり寒冷蕁麻疹は毎回、寒気を受けて発症しているが・・) それとも慢性の場合は、血虚生風とかになるのだろうか? ④生風と受風の違いは何か?
以上のことに対して問題点を持ちつつ、解説してみよう。

(1)蕁麻疹の弁証論治       


臨床中医内科学より

病機

風寒襲表

疹块色淡,好发于暴露部位。
遇冷加重

風寒が絡脈に結するので色が淡

風熱郁肌

皮疹色红,遇风得热加重

風熱が血分にて争う

心肺郁熱

皮疹色红,肌热刺痒,
抓后起赤色条索状风团

情志が郁して心火を起こし、血熱生風になり,紅疹が肌膚にでる

脾虚受風

皮疹淡红,伴脘腹疼痛,呕恶

脾虚で衛外不固になり、風が虚に乗じて侵入する。

胃腸積熱

疹块色红,灼热,腹满便秘

飲食不節から湿熱が内盛、化火して生風する。

血熱毒盛

疹色鲜红,发病急,范围广,
多有药毒病史

素体が陽熱の人や食事から湿熱内盛や薬の毒が長く滞在して火毒になり営血に及ぶ。

気血両虚

疹块色淡,
反复不愈,劳累后易发,
面色无华

気虚で腠理が開いて衛外不固。
血虚で生風になる。

血瘀生風

疹色暗红,反复不愈,
易发于皮肤受压部位

風熱邪が長く営血にいたため瘀血を生じる。そうなると、圧迫によってその部位に膨疹ができる。気血瘀滞して、肌膚は失養して風を生じてくる。

解説1
血分にあるものは紅、鮮紅、暗紅になっている。風寒襲肺では色が淡紅で部位は烙脈(気分)にある、その他の淡紅は部位不明だが恐らく気分であろう。

 

(2)膨疹についての解説、
1)西洋医学的には
①「主として液体成分による皮膚の限局性の膨瘤を膨疹という。すなわち皮膚の
表在性、限局性の浮腫であり、蕁麻疹の基本的発疹である。浮腫は真皮(気分)にできる」色は表面の血管の状態によってきまる。
②「膨疹が皮膚の深部(真皮、皮下組織)に生じる場合は血管浮腫(クインケ浮腫)という」
③「結合織がまばらでリンパ管の多い部位(眼瞼、外陰部、口唇)では巨大な膨瘤となる」

2)老中医の見解
①呉沢森先生の講義集より
「膨疹は熱であり、気の郁結である。かゆみがあってかくと汁が出る。これは湿である。蕁麻疹はかいても汁が出ないので、湿ではない。」
②赵纯修教授⑲は風团は限局性の水腫である。故に蕁麻疹は常に水湿の邪をもつ。去湿が必要。 沢瀉、浮萍、苦参、木通 
③颜正华教授⑥は症例で「風熱が血分に入って瘀血と湿が挟んでおこる」として湿をとる中薬として土茯苓、白鮮皮、地膚子をあげている。

解説2
①弁病と見解より「膨疹(もりあがっている疹)は限局性の水腫」と考えるのが妥当である
②蕁麻疹とはちがうが老人性皮膚搔痒症の解説。「湿盛んなら皮膚は増厚して搔痒は長引く。」
また、血虚生風では経過が長くなるので潤燥とともに袪湿を忘れてはいけない。袪湿は陰液損傷し、養血に不利なので健脾して袪湿が良いので茯苓、薏苡仁、白朮など。とある。
一般に(蕁麻疹に限らず)皮膚が増高していれば水滞を考えてよいだろう。

(3) 蕁麻疹の位置について
1)呉沢森先生の講義集より
風寒邪気は気分にはいり、疹は蒼白で、喜暖。
風熱邪気は血分にはいるので疹は鮮紅色で喜冷。
血虚は疹淡紅で腫れは軽い。夜にかゆみが強い。
2)各老中医は
颜正华⑥> 風熱が血分に入って瘀血と湿が挟んでおこる
许履和④> 風熱が血分に留まって蕁麻疹になる

解説3
①弁証分類でも「風寒は絡(気分)に結する」「風熱は血分」「血瘀生風では血分」とあるように位置については気分~血分に及ぶと考える。西洋医学でも一般に表在性というが深い所にもあるという。
②表在性というが「浮腫は真皮(気分)にある。」気分は深部(真皮、皮下組織)と記載があるので決して浅いとはいえない。

(4)風熱で一日に何回も、または毎日発症するのはなぜか
慢性の場合、老中医は

  • 颜正华⑥>風熱が血分に入って瘀血と湿が挟んでおこる。
  • 孔繁学⑪>肌膚の郁熱
  • 许履和④>風熱が血分に留まって蕁麻疹になる
  • 许履和>血分に熱があると毛孔が開き、風を招く。風と熱が合して皮膚にあ     

ふれるとしている。(血分有熱、衛気不足)
解説3
①「風熱の邪気が血分に留まって起こる」としているが、一日に何回も発症する説明にはなっていない。
②★<血分に郁熱があってその熱が、時に強くなる。すると毛孔が開き、風を招き、風と熱が相博する。営気が内守できなくなり、水湿が真皮(気分)にあふれる。>とすれば理解できる。

③★(星印は筆者の考え)。風熱の邪が伏邪として募原または少陰に潜伏して、時に発現する可能性もある。

 

(5)生風と受風の違いは何か?
1)呉先生の蕁麻疹の分類に血虚生風がある。
血虚生風の主症状は本来は「手足がぴくぴく、振戦、眼干」などである。肝血が不足して筋を滋養できなくなって虚風現症があらわれるというのが本来であり、老人搔痒症では血虚生風として当帰飲子でよくなる例も多い。しかし、そのときに膨疹はないはず?生風で色は淡。

2)上記の教科書では、脾虚受風である。血虚受風と弁証している老中医もいる。
张志礼⑤>血虚で肌膚を養えず、腠理が密にならず、風寒を受けて去らずにおこる。
すなわち血虚で風を受けやすくなり、血虚受風(風寒の場合)になるという。
当帰10熟地黄10白芍10何首烏30黄耆15白朮10防風10浮萍10桂枝10
乾姜皮10白僵蚕10白鮮皮30
3)许履和④>血分有熱、衛気不足として、熱があると毛孔が開き、風を招く。風と熱が合して皮膚にあふれるとしている。つまり「血熱受風」になる。
党参10白朮4.5防風4.5連翹10生地黄12紅花3桃仁4.5白鮮皮10地膚子10
蝉退1.5
解説4
①生風になるのは血虚生風であり、肝血がへって肝風がおこることによる。
受風になるのは、脾虚、血虚で肌表を守れず風を受ける場合と、内熱により腠理が開いて風を受ける場合がある。
②血虚生風なら当帰飲子であるが、张志礼は皮膚瘙痒症(妙法解析、皮膚科p141)で
気虚血燥の治療で
党参10黄耆10生地黄10熟地黄10麦門冬10当帰10赤芍10白芍10丹参15鶏血藤15何首烏30防風10蒺藜子30苦参15浮萍10地膚子15
●掻破痕は色素沈着起こし。盛り上がるので増厚ありとして地膚子(清熱利水)加味している。 また浮萍で腠理を開いて疏風止痒している。

参考①>ここでは出てこないが、脾虚生風もある。嘔吐、泄瀉で陰液消耗して陰虚生風で抽搐。脾虚肝旺は脾気虚で土虚木乗になる。

参考②>蕁麻疹とアトピーの違い。

  • 蕁麻疹は風熱(ときに風寒)が気分、または血分に入る。痰湿があるのでそれと結合するが結合が弱いのであろう、風熱+痰湿となるか、または風寒化熱+痰湿

風熱が血分に侵入したら血熱になるがそのとき舌は紅絳だが苔はきれい。
(血熱動風症;鑑別診断学149)

★アトピーの場合は脾胃の湿熱(気分)が肌膚に移り、気分で湿熱停滞する。
中焦湿熱で黄膩苔になる(弁証462)。熱が盛んになると血分に侵入する(弁証学463)。そして紅斑になる。湿があるため盛り上がる。
→気分では湿熱、血分では熱傷陰。熱をだすには腠理を開く(滑石、桑葉、玉竹
浮萍、柴胡)
(ただし、木田さんは「アトピーの場合、比較的、膩苔は少ない」という。

 

<まとめ>
風熱の蕁麻疹の考え方(妙法解析より)
1)颜正华⑥> 風熱が血分に入って瘀血と湿が挟んでおこる
A)血分の風熱が大事:防風、荊芥、蝉退、白疾痢、金銀花、連翹、地膚子
B)血行風自滅から涼血活血が必要:干地黄、赤芍、牡丹皮、熟大黄、紫草
C)湿をとる :土茯苓、白鮮皮、地膚子  
D)便秘があれば泄熱する:熟大黄、干地黄
2)许履和④>風熱が血分に留まって蕁麻疹になる、治風先治血が大事として
八味消風散>生地黄、連翹、桃仁、紅花、白鮮皮、地膚子、白僵蚕、蝉退
3)何任①>風熱瘀熱とする
「部位は血分、袪風は麻黄で効果なし、袪風は徐長卿、威霊仙、地竜」
4)刘渡舟⑦>風熱挟湿とする
「淡い黄色の斑:部位は気分、血分。袪風は防風荊芥、」
5)孟澍江⑮>風熱証
かゆいのは風であり、赤いのは熱である。だから風と熱の結合である
「紅斑;部位は血分。袪風は麻黄」
6)赵纯修⑲>熱が血分に及ぶと血熱になり、ゆえに皮疹は赤くなる。
「赤い斑:血分、袪風は菊花、蝉退」
7)张志礼⑤>風熱犯表  「赤い斑;気分と血分、袪風は防風、荊芥、地膚子」


 風熱→血分に入り紅斑;舌紅、または辺紅(これが多い)
風熱→気分+血分にはいり淡い黄色の斑;舌は紅絳(刘渡舟⑦)
風熱→気分+血分にはいり紅斑:舌は淡紅(张志礼⑤)

寒冷蕁麻疹の考え方
1)赵炳南③>寒が里にはいって化熱する。または血絡に入って化熱傷陰する
「紅斑、血分、袪風は防風、荊芥」
2)张志礼⑤>衛気不足、または血虚で肌膚を養えず風寒を受けてなる。
「紅斑、気分、袪風は防風、桂枝」舌淡、薄白苔
3)赵健雄⑱>風寒が外犯して営衛不和になり、邪熱内郁になり肺気不宣になる。
淡白の膨疹血分、袪風は麻黄、桂枝」舌は紅、薄白苔

  • 1)~3)の考え方「風寒化熱」が多い。7症例中6例は邪熱内郁(血分5、    

気分1)に対応している。
4)欧阳恒⑨>陽虚で陰寒が絡に伏することによる、この例のみが温陽散寒のみしている  「色は淡紅、気分~血分。袪風は麻黄、附子」 
5)7例中5例は麻黄使用:麻黄(1)、麻黄桂枝(2)麻黄附子(1)または麻黄石膏(1)。のこり1例は防風荊芥、1例は防風、桂枝。

 

結論


風寒→血分にはいり化熱して紅斑(これが多い)
風寒→血分にはいり化熱して淡白の膨疹;舌は紅(赵健雄⑱)
風寒→気分にはいり化熱して紅斑:舌淡(张志礼⑤)
風寒→気分~血分にはいり淡紅斑:舌淡紅(欧阳恒⑨)

考察>
風熱>淡い黄色の膨疹でも舌紅絳なら気分+血分にありとしている。
風寒>淡白の膨疹でも舌紅なら血分で化熱としている。
紅斑でも舌淡なら気分で化熱としている。
 斑のいろより舌の色から深さを判定しているようだ。

<湿熱そのた>
1)蒲辅周②>血燥風盛、湿熱
「色?血分、袪風は羌活、蝉退、露蜂房」
2)刘渡舟⑦>風湿客表:陽気郁して郁熱
「紅い膨疹、気分、袪風は麻黄、連翹」
3)王立本⑫>風熱証と過食
過食で熱を生じて乾燥し、熱は風を生じ風は動く:動風燥火
「白~紅の斑。血分。袪風は防風荊芥、牛蒡子、蝉退」
4)肖立渭⑬>陰血亏虚
「色?血分、袪風(透熱)は青蒿」
5)田淑霄⑰>血虚受風 (生風ではなく、受風である)
「色?血分、袪風は白疾痢、露蜂房」
6)孔繁学⑪>肌膚の郁熱、血熱、血燥、瘀血。
「色は紅、灼熱、血分、袪風は麻黄石膏」
7)王鹏飞⑭>血熱瘀滞
「紅色、血分、袪風は白芷」
<中薬の選択>
① 抾風剤について 
風寒の場合>7例中5例は麻黄使用:麻黄(1)、麻黄桂枝(2)麻黄附子(1)または麻黄石膏(1)。のこり1例は防風荊芥、1例は防風、桂枝
風熱の場合>王立本⑫:防風、荊芥、蝉退、牛蒡子。白僵蚕、全蠍は使とする
一般に防風、荊芥が多い。
②袪風止痒
田淑霄⑰>地膚子、白鮮皮、蛇床子、白疾痢、露蜂房は袪風止痒、消疹。
孟澍江⑮>痒みの頑固なものは
蝉退、蛇退、威霊仙が袪風止痒の要薬である
陈德润⑩>露蜂房、蛇退は剔邪捜風
張迪蛟⑳>蝉退、白疾痢、烏梢蛇は抗アレルギー作用がある。
③袪湿剤
赵纯修>風团は限局性の水腫である。故に蕁麻疹は常に水湿の邪をもつ。去湿が必要。 沢瀉、浮萍、苦参、木通
赵炳南③>利水は地膚子、車前子、沢瀉、苦参
⑥清気分熱
清気分熱  石膏知母、     肌表の清熱に  蝉退、薄荷、桑白皮
白鮮皮は脾胃に帰経するので清気分熱

 

 
 
 
 
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