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  冷えのぼせ  H23.10.23    
 

1)弁証の分類「手足厥冷」、「潮熱」、「冷えのぼせ」
中国の証候鑑別診断や妙方解析には「冷えのぼせ」という症候名がのっていませ
ん。だから老中医のまとまった解説は得難いので、今回は個々の分析、症例提示しながら冷えのぼせの問題点を考えてみたい。まず冷えについての弁証論治は、中医症状鑑別診断学によれば「手足厥冷」p236として記載され

 ①陽虚腎寒 ②熱极肢厥 ③陽気郁阻 ④血寒凝滞 ⑤痰濁内阻 ⑥虫扰胆腑

が分類されます。
一方、のぼせについては「潮熱」p34が相当すると思います。(たとえば更年期症状ののぼせは潮熱または洪熱として記載しています。上火ともいう。)潮熱については

 ①陽明臓腑潮熱 ②陰虚血亏 ③脾胃気虚(気虚発熱)④暑熱傷気 ⑤瘀血内熱

に分類されます。(洪熱の分類記載はありません)
中医臨床の高橋陽子先生(123巻p100)によると「冷えのぼせは、慢性疾患を持った人、高齢者のなかによくみられる。しかし、その原因は往々にして単純な陰虚ではなく、陽虚か気虚も混在している。・・ゆえに陰虚と思うのぼせ、ほてりの他に、もし足の冷えも見られる場合は、陽虚を夾雑しているか、あるいは他の原因があるかを詳しく分析しなければならない。」とのべている。そして冷えのぼせの分類として以下の4つをあげている。

 ①陰陽両虚、②気陰両虚、③気血凝滞化熱による気血の流れの異常、 ④腎陽虚、虚陽浮越
すなわち、「冷え」と「のぼせ」の公約数的な弁証分類になっている。この分類は中医の書物をいろいろさがしたが記載はないようである。
冷えのぼせがみられる疾患に更年期障害がある。更年期の弁証分類は最近の中医産婦人科によると腎陰虚、腎陽虚、腎陰陽両虚であり、冷えとのぼせは腎陰陽両虚の中でみられる。すなわち高橋先生のいうように単一の病理でなく複数の病理の混在することが考えられる。たしかに患者に問診すると冷えとのぼせは因果関係があることは少なく、ただ併発しておこることが多い。しかし一部には冷えるとのぼせるという人もいるので病理はもうすこし複雑であろう。
2)日本漢方の冷えのぼせ
日本でよくいう「冷えのぼせ」は日本漢方特有の症候単位であるゆえ、中医学の教科書に載っていないといえる。陰陽両虚の更年期障害では「顔面洪熱、汗出悪風、腰背冷痛」と別々の症状の列挙になっている。(冷えてのぼせるとは考えてないようだ)中医学的には傷寒論的な上熱下寒の記載はあるが、やや特殊な例であり全般的でない。それゆえ日本漢方の考え方から理解することが必要になる。

2-1)冷えのぼせの機序
日本漢方では、冷えのぼせに桂枝加桂湯、茯苓桂枝大棗甘草湯をよく使う。
では日本漢方では冷えのぼせの病態をどう説明しているのでしょう。以下がその説明です。(入門漢方医学より)
『 気血水の異常のなかで気の異常には、上衝、気鬱、気虚がある。気の上衝とは、「のぼせて、頭痛がする。顔が紅潮して熱い、冷えのぼせ、動悸」などである。これらの症状が認められ、気の上衝と思われたときは桂枝を含む処方を用いる。(桂枝湯、桂枝甘草湯、桂枝加桂湯、苓桂朮甘湯、苓桂棗甘湯・・)<気の上衝の運動型として捉える>』
つまり、冷えのぼせを『気の上衝』としてとらえているのがわかります。問題点は、気の上衝がなぜおこるのか、気の上衝はひとつの病機だけか、桂枝が必ず有効か、などです。これを解決する必要があります。

3)中医学的にみた気の上衝(気の上衝は一つではない)
桂枝加桂湯、茯苓桂枝大棗甘草湯、これは金匱要略の処方で、いわゆる奔豚病に使う処方です。これは老中医によれば⑤水気上衝になります。これは後で詳しく解説しますが気の上衝のひとつです。気の上衝にはそれ以外に李克紹、張錫純の説である⑥衝気上逆があります。簡単に説明すると「衝脈病とは逆気裏急であり、その中に、奔豚病もはいっている。腎気不摂によって衝気が上に上逆して(陽明経経由して)、肺、胃をついて喘、嘔吐おこる。」としています。

4)冷えのぼせの追加弁証
さらにそれ以外の冷えのぼせとして傷寒論の厥陰病編でのべている⑦傷寒論の上熱下寒(傷寒論の少陰病編でのべている麻黄升麻湯の証)「陰陽不和で四肢厥逆して内陥した邪気が上部をおかしておこる」
⑧腎陽虚から心火亢進した心腎不交(通常は腎陰虚からですが腎陽虚からでもおこる)があげられる。

5)冷えのぼせと気の上衝の関係
上記の①~⑧をよく見てみると、冷えのぼせと気の上衝は1対1の対応をしてないことがわかります。下表参照

 

冷えのぼせの有無

気の上衝

①陰陽両虚、

②気陰両虚、

③気血凝滞化熱による気血の流れの異常、

 

④腎陽虚、虚陽浮越

⑤水気上衝

?ある場合もある

⑥衝気上逆

?ある場合もある

⑦麻黄升麻湯の証

 

⑧腎陽虚から心火亢進した心腎不交

 

つまり「冷えのぼせが気の上衝によるとは言えません」

5-2)冷えとのぼせの調査結果
『冷えとのぼせのある人女性25名を調査した。』
①冷えとのぼせは、同時にあっても、冷えは冷え、のぼせはのぼせで関連がない:19名(76%)
②足が冷えるとき、顔がのぼせる:4名(16%)
上昇感ある人は4名中2名。(8%):そのうち一名は桂枝茯苓丸+八味丸が有効
③のぼせてから足が冷える:2名
結論>冷えとのぼせは別々に起こっていることが多い(76%)。冷えてのぼせる虚陽浮越は少ない(8%~16%)。のぼせてから冷えるのが(8%)あった。更年期の患者の、のぼせと汗出は同時に起こっているので、多くは「冷えと汗出・のぼせは別々に起こる現象である」といえる。つまり気虚~陽虚と陰虚の併存である。

6)水気上衝(奔豚病)について
老中医(劉渡舟老師)の解説より
傷寒論原文は
「发汗后,烧针令其汗,针所被寒,核起而赤者,必发奔豚,气从小腹上至心,灸其核上各一壮,与桂枝加桂汤主之  桂枝加桂汤〉桂枝5两,芍药3甘草2生姜3大枣12枚
发汗后,脐下悸者,欲作奔豚,茯苓桂枝甘草大枣汤主之,茯苓桂枝甘草大枣汤〉茯苓半斤,甘草2大枣15枚,桂枝4」
解説>発汗しすぎて、心陽損傷し(汗は心の液)、下焦の陰寒を制圧できなくなり(または寒邪をうけて)、このため寒水は上にあふれて上昇して(少陰腎経に沿って)、動悸、息づまりをおこす。奔豚病は中国の寒い地方(零下30度左右)に多い風土病である。 傷寒論の大家である劉渡舟老師はこの病態を、中医学用語で水気上衝とあらわしている。
さらに彼によれば「脈は沈弦(沈緊)である。沈は水を司る、弦は飲を司る。心陽が先に虚するので舌は必ず淡嫩である。水が下から上に上がるので苔は水滑。心の華は顔にあるので陰邪が陽気と博ちあうと、営衛は渋滞して、心血は顔面を栄養できなくなる。顔色は黒ずんで水斑(黒い色素沈着)ができたりする。」p227

6-2)奔豚病について、その2
「この疾患自体、問題点は多い。まず日本で見たことがない。」
①寒飲が上に上がるのはなぜか。
②桂枝(温経通陽)は気の上昇(のぼせ)をさげると日本漢方は言うが、本当にそうか?
③臍下動悸は水飲でおこるか?

解説>(私見)
①寒飲がうえにあがるのは、心陽虚のために腎陽があがりそれにつれて寒飲が引き上げられると考える。水寒の気があがる根拠は「心陽虚なら腎陽があがって補おうとする(詳解p279)」機序があるからである。
②桂枝について

  1. 桂枝は奔豚病に多くつかわれるが、それは心陽虚で寒邪をうけて水寒の気が上衝することによる。腎陽にひきつられて水寒の気があがっていく。桂枝は心陽をおぎない、又一方で寒で収引された血管、経絡をあたためて緩めることにより上逆をおさえるのだ。結果としてのぼせ(のぼせるのか?陰気上逆なら熱はないのでは?)を引き下ろすことになる。すなわち寒によって起こったのぼせのときに有効である。
  2. よって陰虚火旺ののぼせには無効。(桂枝茯苓丸つかったがのぼせはひどくなった)
  3. ただ本来,温経通陽するから、経絡に沿って進む作用はある。

  すなわち寒により収引されていない場合、温経通陽するので気をひきあげることもありうる。

  1. 陰虚の場合には入陰通陽できるので、火旺でない限り有効性あり。

(老中医の診察室より)
③臍上動悸がみられるのは陰虚火旺、脾胃気虚、食積、湿毒とある。寒飲でもおこるだろう。
7)桂枝の考え方
「それでは他の医者は桂枝の作用をどうみているか」
①張錫純296p
桂枝性温,温为木气,其得春木之气最厚,是以善升,其味甚辣,辣为金味,
其得秋金之味最厚,是以善降。且气之当升不升,遇桂枝则升,气之当降不降者,遇桂枝则降。
例子〉升脾>麦芽,桂枝
降胃>鶏内金、桂枝
張錫純は「桂枝は時に応じて上がり、下げもする」という。
②江部先生は
胃気を脈外の気につなげた結果、腎の衝気を腎~胃~肺の方向に転換してその結果、衝気はおさまる。(すなわち桂枝は上げる作用としている)

③劉 渡舟p98;桂枝は心陽を益し。風寒を散じ水気を降ろす、

8)症例検討    つぎは奔豚病の症例である。
8-1)例題 劉渡舟124p
気の塊が内踝から、大腿内側にそって上行すると感じ、下腹部に至ると腹がはり、心胸部に至ると呼吸が促迫して動悸が起こり頭部からは冷汗がでる。しばらくすると気は下行し、諸症状もそれにつれて軽減する。毎日2回も3回も発作があり、いつ起こるのかとびくびくしている。顔色は青黄色で光沢がない。舌質は淡嫩で舌苔は白くて潤である。脈は弦数で按じると無力。

解説>これは奔豚である。奔豚の発作はすべて上焦の心陽が虚して抑制する力を失うと、下焦の腎陰の邪気が突き上げてくるのである。いま陽と陰が互いに争うので脈は弦で数であるが按じると力がない。陰気が上逆するので脈弦となる。舌質が淡嫩であるのは心陽が虚しているから。
処方>桂枝加桂湯
これが奔豚病(水気上衝)である。かならずしも冷えのぼせとイコールではないが、日本漢方では冷えのぼせにこの方剤をよくつかう。日本漢方では腎陽虚、虚陽浮越にこの処方を応用しているようです。
8-2)
「次に症例2(日本漢方の人の症例)をしめす。病機を考えてほしい。日本漢方のひとは冷えのぼせがあったからこれをつかい良くなったというのであるが、中医学的にみると非常に複雑な病理だと思う。」
症例2>織部氏の症例(大分市)漢方メディスンより
57歳、女性
近所にカラオケ屋ができて夜中じゅう騒いでいるので不眠となり、警察に届けたところ自分で処理しろといわれたため、急にカッとして頭に血が逆流した。気分が悪くのぼせて割れるような頭痛や眩暈が出現した。逆にあしは冷えるといって来院した。やや虚証タイプで顔は真っ赤。いらいらして早口でしゃべる。脈は90~100/分、浮弱。血圧は146/84. 腹力はやや弱く、右臍傍に腹直筋攣急、左臍傍に大動脈の著名な拍動を触れた。以上より桂枝加桂湯3日分で諸症状はドラマチックに改善した。
①どういう病態か?
②なぜ数脈か

解説>
日本漢方では、おそらく「腹直筋緊張は虚証がおおく芍薬の入った処方を考える。冷えのぼせは桂枝のはいった処方をかんがえる。気の上衝時には大動脈の拍動もみられるので、奔豚病に類似しており、桂枝加桂湯を使用した。病理は気の上衝。(あえていえば虚陽浮越か水気上衝であろう)」となるのであろう。ただ奔豚病(水気上衝)なら脈は沈弦がおおく、顔色は黒ずんで水斑(黒い色素沈着)がふつうであるので少し異なる。虚陽浮越なら脈は微細欲絶になるはず。
中医学的に考えると、不眠だから陰虚は形成されていたはず。かっとなって血が逆流したから肝火上逆があったかもしれない。臍上動悸みられるのは陰虚火旺、脾胃気虚、食積、湿毒とある。腹直筋攣急は陰血不足か肝失疎泄が多い。
問題点は、「足が冷える」と「数脈」となぜ桂枝加桂湯で効果があったか。
まず情報が偏っている可能性がある。舌所見も記載がない。桂枝加桂湯をのんでカラオケ屋が静かになるはずがない。しかも虚陽浮越なら、脈は微細欲絶になるはず。なぜ、数脈か?また浮で弱というが、弱は本来、沈細軟の脈をいうので、表現が不適切。

 おそらく、陽虚がベースにあって(足の冷え)、そこへ不眠で陰虚になり、肝失疎泄もてつだって、陰陽不和になり、格陽が起こったとかんがえられる。
根拠①陽虚だけなら沈細軟だが、陰虚が混じって数脈。浮脈は虚の表れ。

    1. 桂枝がきくのぼせは陽虚からおこったのぼせと考えている。

( 陰虚火旺のひとに筋腫もあったので桂枝茯苓丸エキスを加味したら2日でのぼせが酷くなった。)

8-3) 例題3)老中医の診察室より112p
50歳前後、女性
『その患者は眉間にしわを寄せ、眼がどんよりとして、酷くやつれている。ここ3,4カ月というもの、毎晩のように恐ろしい夢を見る。動悸や眩暈もひどく疲れが取れない。起きると眩暈がするため始終床についている。よこになっていても川の流れに身を浮かべているようだという。又便秘がひどく、肛門が避けて出血し、喉や口も乾いている。舌は紅、剥落苔、』
これにたいして百合地黄湯、増液糖、天王補心丹の合法を20剤以上だしたがよくならない。老師が診察するに脈は弦細、無力、脈拍数がすぐに変動する。(散脈:浮散で根底なし、リズム不整:陰陽離決の時、元気離散のときにでる)
処方は
桂枝12芍薬18炙甘草6竜骨30牡蠣30生地黄18百合12丹参12玄参12麦門冬10桔梗4.5石斛10茯苓12麻子仁12
1週間で症状は改善する。

  1. 虚がはっきりしているのに辛温桂枝をいれて効果があったのはなぜか?

老師の解説>
「虚労病、夢交証の本質は陽虚が本であり、陰虚は長患いによって生じたのであるからそらは標なのだ。陰薬に桂枝を加えると、陰つまり津液、血液は陽気の推動によって枯れることなく陰血が濡養する力をさらに強めるというわけです」(陰虚なら桂枝はまだつかえるようだ):入陰通陽

9)脈症について

 

証候鑑別診断学より

その他から

陰陽両虚

微数欲絶

弁証学より細無力

虚陽浮越

微細欲絶

弁証学より浮大で無根

心腎不交

細数(腎陰虚からの心腎不交)

腎陽虚からの心腎不交は傷寒論では微細欲絶

奔豚病(水気上衝)

 

劉渡舟によれば沈弦(緊)

10)陰虚で冷えはおこるか?
今回の特別演者の高橋先生のコメントより(中医臨床から)
「陰虚でも(足が)冷えるとする」考え方は問題である。臨床では陰虚の所見を有する人で、のぼせほてりのほかに、足が冷えると訴える患者もすくなくない。 しかしその原因は単純な陰虚ではなく、陰陽両虚、気陰両虚、気血凝滞化熱による気血の流れの異常、虚陽浮越である」
私は「陰虚では足の冷えはない」ということに、臨床的に疑問をもっている。今回、症例を提示してその点を考えてみたい。
主に補陰して足がぬくくなった3症例

症例1
43歳、女
肩こりいらいら、不眠、腰痛

肝脾不和
腎陰虚

柴胡5芍薬5当帰5川楝子5生地黄5百合5延胡索3山梔子3牡丹皮5川芎3人参3黄芩3甘草2
1週後足ぽかぽかしてきた

症例2
38歳、女
シェ―グレン症候群、手足のしびれ、手あれ

陰血不足
湿熱、
瘀熱

生地黄5玄参5赤芍5牡丹皮5半夏5栝楼実5黄連1.5麦芽10山薬5蒼朮3芍薬3当帰3薏苡仁6
1週後
手足しびれ、手荒れ減る。末端がぬくくなった

症例3
48歳、女
花粉症
更年期障害
風熱外犯、
水気上逆、
陰虚陽亢
桑葉5杏仁5桔梗5生地黄5山薬5山梔子5蝉退5女貞子5白僵蚕3疾痢子3山茱萸3玄参3+薄荷3
(脈関浮細数80)
1週後
足先が温くなった、肌がしっとりしてきた

症例3
 48歳  女性、H22年6月
主訴>鼻炎、(鼻水は透明、サラサラ~粘、朝がひどい。鼻詰まりは夜に悪化。鼻が痒い。くしゃみ)
生活歴>夕食8時、間食1-2/日、たばこ5/日、 大便2日に1回、先硬後軟、 睡眠0~7、寝つきがわるく2時間かかる。 午前4時頃に鼻詰まりで断眠。運動30分
現病歴>
肩こり、体重い、足冷え、自汗多い、寝汗は2/週、暑がり(顔、胸)、末端はひえる、疲れやすい。 口渇すこし。目が疲れる、かすむ、イライラする、ゆううつになりやすい、ため息をつく、 時々足むくむ。口内炎時々。鼻水、くしゃみ。顔が時々ほてる。  精力減退。
月経>3/19~、28日型、量普通、血塊小豆大3個、経痛軽い、子宮外妊娠2回、
脈:関浮細数、細弦数(80)   舌:淡紅、薄黄白
腹診>臍上動悸浮、左臍傍圧痛、右胸脇苦満少し
毎日抗ヒスタミン剤内服
弁証>風熱外犯、陰虚陽亢、
桑葉5杏仁5桔梗5生地黄5山薬5山梔子5蝉退5女貞子5白疾痢3白僵蚕3山茱萸3玄参3+薄荷3
  1週間後に来院してまず一言「足がぬくくなった.」その他の症状を聞くと、鼻水、鼻詰まりへって抗ヒスタミン剤は飲まないですごせた。皮膚にしっとり感が出てきた。上半身のくすみが減った。目のしょぼしょぼが減った。


桑葉

苦甘寒

女貞子

甘苦涼

杏仁

苦微温、有小毒

白疾痢

辛苦平

桔梗

苦辛平

白僵蚕

鹹平

生地黄

甘苦寒

山茱萸

酸微温

山薬

甘平

玄参

苦甘鹹寒

山梔子

苦寒

薄荷

辛涼

蝉退

鹹甘寒

結語
1)補陰剤で手足の冷えが改善した人を、後視的に観察すると、手足の冷えは四肢末端のみで手足不温の範疇にはいることがわかった。
参考>一般に、手足の厥冷とは冷えが手首、足首に至るも のをいい、肘、膝まで冷えるものを手足厥逆という。(鑑別診断学236P)手足の厥冷より軽いものは手足不温という。
2)手足の冷えを訴える人の中には単なる手足不温もあり、温陽を必要とする本当の冷え(厥冷、厥逆)と区別が大事。
3)陰虚による手足不温は臨床的によくみられる事象である。
考察>
1)陰血不足になると虚熱と陽亢がおこる。そのため足の末端 は血のめぐりが悪くなり、手足不温(患者は冷えという)になる 。それが冷えのぼせの一つになっている可能性がある。
2)手足の掌は、本来熱の放散場所である。それゆえ虚熱がなくて血行が悪いだけの場合でも(たとえば、運動不足)容易に冷えやすくなると考えられる。
11)<ひえのぼせ>  まとめ
1>弁証としては
陽虚からの冷えのぼせ
④腎陽虚、虚陽浮越、⑧腎陽虚から心火亢進した心腎不交、⑤水気上衝、
①陰陽両虚
陰虚からの冷えのぼせ
⑨陰虚と手足不温①陰陽両虚②気陰両虚
気の上逆によるもの
⑥衝気上逆、⑤水気上衝、⑩腎気上攻、
それ以外のもの
③気血凝滞化熱による気血の流れの異常、
⑦上熱下寒(麻黄升麻湯の証、陰陽不和で四肢厥逆して内陥した邪気が上部をおかしておこる)があげられる。
気の上逆(病理)とひえのぼせ(症状)はイコールではないが重なる部分もおおい。まず気の上逆(気逆)には肺気逆、胃気逆、肝気上逆、奔豚病、衝気上逆、腎気上攻などがあげられ。かならずしも冷えのぼせを呈するとはいえないが、気が上昇して下焦の温煦不足から症状として出現してもおかしくない。
2>桂枝をのぼせに使う場合は
①陽虚の冷えのぼせ(虚陽浮越、心腎不交)とせいぜい②陰陽両虚までで
陰虚~陰虚火旺なら逆効果になる。(陰虚、陰虚火旺例に使うとのぼせは悪化した。)
3>陰陽両虚の冷えのぼせの場合、脈症に注意する。脈は微数欲絶~細無力がおおい。この場合、桂枝は陰にはいって陰血を推動する作用があるので有効。
4>桂枝の作用は温経通陽であり、陽虚による場合はのぼせを引き下げることができる。これは寒による収引を解除して上下を通絡することにより、結果的にのぼせを引き下ろすようにみえるからと推測する。(私見)
5>病機


奔豚病
水気上衝

発汗しすぎて、心陽損傷し(汗は心の液)、下焦の陰寒を制圧できなくなり(または寒邪をうけて)、このため寒水は上にあふれて上昇して(少陰腎経に沿って)、動悸、息づまりをおこす

虚陽浮越

腎陽虚がひどくて陰陽離決して虚陽が上る。(格陽、載陽)

腎陽虚からの心腎不交

腎陽虚から腎水をあげられず、上方では心火が一人亢進する。

衝気上逆

腎気不摂から腎気が衝逆する

12)蛇足
「眠いとき、赤ちゃんの手が暖かくなるのは、体の内部の温度を下げて、うまく眠れるようにしている」「動物は足裏が熱放散の重要な場所である。」といわれています。
すなわち手足心は熱の放散場所である。これはおとなにもあてはまり、虚熱を放散するために手足心が熱くなる。
また江部先生によると「紫色のチアノーゼは血が行くだけで戻れないから」という。瘀血なら瘀熱になってもよさそうだが手足は冷える。これは手掌、足掌が熱の放散の場であって、熱が放散しやすく瘀熱にはなりにくのではなかろうか。ふくらはぎの静脈瘤は触ると熱い、これは瘀熱になっているのだろう。

 
 
 
 
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