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   弁証論治とは?
 

いろんな症状を分析して、証をたてて治療することを弁証論治といいます。
まずは実際の症例から、みてみましょう。主訴「不眠」の症例を、どう分析するかを解説してみます。

症例紹介

1>症例 女性51歳、162cm、55kg。
主訴>不眠。現病歴>「2.3か月前より不眠。寝付きに30分以上かかり、断眠4,5回と多い。4日前より、デパスまたはレンドルミンのんで寝るが、4,5時間で目が覚め、その後寝むれない。肩こりがひどく、肩コリで目が覚める。就寝は11~6時。
既往歴>20歳胃潰瘍、49歳で乳腺症、同年9月より萎縮性胃炎,高脂血症でクレストール内服。1年前50歳のとき、「不眠、便秘、肩こり頭痛、腰痛、腰冷え、尿失禁」にて、陰虚内熱、腎陽虚、痰湿頭痛にて当院で加療して軽快していた。
生活歴>夕食9時、肉多い。キムチ胡椒が多い。喉は乾かないが心がけて飲む、1L~1.2L/日、焼酎1杯/日、たばこ(-)。便は3日でないとセンナ、ヨーグルト飲んで出すが軟便、飲まないとコロコロ便、残便感あり。尿6~8回/日、残尿感あり勢いない、尿漏れはない。睡眠は11~6時で寝付き30分以上、断眠4,5回。4日前より、デパス、またはレンドルミンでのんで寝る、4,5時間で目が覚め、その後寝られない。運動10分。
現症>肩こり酷い(朝から酷い、日中ましになるが夕方アップする、朝>夕)足冷える(足首より下)汗多い、疲れがひどい。口渇少飲、眼疲れ目干燥、光がまぶしい、頭痛(後頭部)、みぞおちがひどく張る、こむら返り1/w、まぶたがぴくぴく(出るときは1週間続く)。空腹時に胃がもたれムカムカして気持ち悪い。胸焼けする。食後に酷く腹が張る。吐き気がする、半年前から食欲がない、おいしくない、空腹感はあるが少食、痰が毎日からむ、(でてこない)、顔がかぶれやすい、右耳鳴り(軽い)、両側すこし難聴、小便の出が悪い、膀胱炎によくなる。(太字は症状強いもの)。
月経歴>初潮13歳、閉経50歳、出産3回。
舌>淡紅、裂紋少し、少苔。   脈>右脈関浮細軟、左脈細弦軟。
腹診>臍上動悸少しある。
背診>左右肩甲骨間~後頸に筋肉緊張、喜按。

主訴は不眠で胃とは関係ないようですが、中医学的には大いに関係があります。整体理論という基本的思想があります。「体の一部の臓器、経絡の乱れ変化は、常に体全体に影響しあう。」という考え方です。この人は不眠でしたが、脾胃の調子が悪いと、不眠にもなることがあり、これを胃気不和不眠と言います。脾胃が調子わるいと経絡を通じて、影響します、陽明胃経は胃を通った後、心に連絡します。心は神明を主るので不眠に関係します。たとえば心血虚の代表症状は「心悸、不眠、多夢、健忘」となっています。

2>分析

前回提示した不眠症例の分析をしてみます。まず不眠の弁証は、心腎不交、心脾両虚、肝気郁結、胃気不和、痰濁阻滞、瘀血にわかれます。こういう弁証分類は、多くの先達の症例から、演繹して導き出したものです。よくある症状の弁証は、大体暗記していることが多いです。この人の主訴は不眠ですが、それ以外で強い症状は「肩こり、疲れ、心下がは張る、食後腹脹、食欲なし」でした。胃腸症状が多く、半年前から持続しているので、この人の不眠は、胃気不和が主体になった不眠といえます。まずは脾胃を立て直すことが優先します。それでは、症状を一つずつ分析してみましょう。

まず「肩こりがひどい」ですが、これの弁証は気滞血瘀、寒凝、痰湿、血不養筋などがあります。「朝から酷い、日中ましになるが夕方に増加、朝>夕の傾向」がありました。朝から酷くて、日中ましになるのは、「朝、体に停滞しているものがあって、動くことによって、めぐるようになって痛みがへる」といえます。つまり実証です。実とは「邪実盛んなれば実」と定義されています。ところが、この人は夕方にすこしアップしてきます。夕方に痛みが強くなってくるのは虚証です。虚とは「正気虚すれば乃ち虚」が定義です。日中、気血を徐々に消耗していくので、消耗につれて痛みが増すのは虚証になります。ただ朝と夕方の肩こりをくらべると朝>夕の傾向があるので、虚実夾雑ですが実>虚の関係がわかります。この分析の仕方は痛みを起こす多くの疾患に応用できます。一方、実にもいろいろあるので更に分析が必要ですが、主訴が肩こりではないので、いまはこの程度で軽く流します。この人の脾胃の現症は「半年前から食欲がない、おいしくない、みぞおちがひどく張る食後に酷く腹が張る。痰が毎日からむ、(でてこない)、疲れがひどい。右脈関浮細軟、」でした。これは脾気虚痰湿で心下痞ができているといえます。復習してみると、脾気虚の症状は「食欲不振、泥状便、食後腹脹、脈弱」でした。脾は生痰の場、肺は貯痰の器と言われるように、脾気虚から痰湿を形成し心下痞をつくっていきます。(第15回参照)。この人には痰湿があることから、朝に酷い肩こりはおそらく痰湿が関与しているようです。ただ舌は膩苔ではなくて少苔、裂紋少しです。また便もコロコロ便ですから、単純な脾気虚痰湿だけではないようです。

そこで他の症状をみてみると、「空腹感はあるが少食、コロコロ便。裂紋少し、少苔。食後に酷く腹が張る。吐き気がする」というのがありました。これは第21回でのべた胃陰虚です。胃陰虚なら「干嘔、空腹感があるが食べたくない」が主要な症状でした。つまりコロコロ便は胃の陰虚のために、陰液が不足していたとわかります。続きの弁証は次回にします。

3> 分析の続きと経過

提示した「不眠」の症例には、脾気虚痰湿と胃陰虚があることがわかりました。また、この人には「眼が疲れ干燥、光がまぶしい、こむら返り1回/週、まぶたがぴくぴく(出るときは1週間続く)」という症状がありました。「肝は目に開窮する」「肝は血を蔵す」と言われるように、肝血が不足すると目に症状がでます。目疲れ、目干燥。目がまぶしいのは津液も消耗しているからで、肝の陰血不足(陰液と血の不足)といえます。「右耳鳴り、両側難聴、小便の出が悪い、膀胱炎によくなる、足冷える(足首より下)、」の症状もあるので肝血不足だけでなく、肝腎陰虚が主体であり、陰損及陽で腎陽虚の要素(足首から下のひえ)も見えています。以上まとめると脾気虚痰湿、胃陰虚、肝腎陰虚といえます。

左脈細軟は肝血不足です。陰虚だと「口渇少飲」の症状もでてきます。口渇少飲になるのは陰虚、痰湿、瘀血に弁証されますが、「臍上動悸」になるのは陰虚火旺と脾胃気虚ですから共通事項として陰血不足が出てきます。つまり、保留していた夕方の肩こりの原因は、血不栄による虚の痛みといえます。「左右肩甲骨間~後頸の筋肉緊張していて喜按」であるのも、血不栄による虚を意味すると理解できます。残りの症状では「空腹時に胃がもたれムカムカして気持ち悪い。胸焼けする」がありました。これは脾胃の防御作用低下か、または胃酸が相対的に多いことをしめします。つまり、胃気虚と胃気逆(酸水を気逆)があるようです。また「つかれがひどい」のは気虚をしめします。よって弁証は①脾胃気虚痰湿(脾気虚+胃気虚)、②胃陰虚、③血不栄筋、(+肝腎不足、腎陽虚)になります。つまり胃気不和(脾胃気虚痰湿、胃陰虚)による不眠と診断できます。

処方>上記の弁証にぴったりくるエキス剤はありません。それで自前で作っていくわけです。党参5白朮3茯苓3山薬5石斛5麦門冬8五味子3当帰3芍薬5牡蠣10烏賊骨5木瓜3桑枝5延胡索3+麻子仁丸3疱/日
解説>脾胃気虚があるので四君子湯が基本になりますが、胃陰虚もあるので人参は温性のため不適です。それで党参、白朮、茯苓を使います。胃陰虚があるので胃に効く滋陰剤の石斛、麦門冬、五味子、山薬をつかいます。血不栄筋、(+肝腎不足)があるので当帰、芍薬、木瓜をいれ、痰湿の肩降りを除く桑枝、さらに延胡索を入れます。胃酸逆流があるので牡蠣、烏賊骨いれます。陰虚便秘に麻子仁丸3疱/日を加えます。こうして処方を組み立て、上記の処方になります。その経過は、1週間後には「5日目には半錠でねむれて昼間も眠かったので6日目には錠剤なしでねむれた。目のぴくぴく-。こむら返りない、胃もたれ減った、空腹時のムカムカ減る、食後腹脹減った、食欲が出てきた。かたこり減った。元気が出てきた。」2週間の加療で治療は終了になりました。このように、症状を細かく分析して弁証し、方剤を考えて治療していくのが中医学です。

 

 

 
 
 
 
 
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